847: ◆EhtsT9zeko[saga]
2015/11/16(月) 01:01:26.40 ID:1hRSULfgo
それから私達は街中をあちこち歩き回って、夕方には組合事務所にも顔を出して、ようやく宿に戻ってきた。
戻って来た、と言うからには、当然、竜娘ちゃんのお母さんを見つけることは、まだ出来ていなかった。
けれど、歩き回った分だけ、いろんな情報を手に入れることは出来た。
これから夕食を食べつつその情報を吟味しようと、私達は宿の食堂に集まってテーブルに並べられた料理に手を伸ばしていた。
「あぁぁ…生き返るぅ?!やっぱり汗を流したあとには冷えたエールだよね!」
大尉さんがそんなことを言いながら、煽って空にしたジョッキをテーブルにドンと置いた。
「その気持ちは分かるです。こういうときは、苦いお酒もおいしく感じるですよ」
そう言った妖精さんも、珍しく果実酒じゃなくてエールのジョッキを手にしていた。
「んんっ!この葉っぱに包まってる肉は…ヤマイノシシか?」
十六号さんが口いっぱいに何かを頬張りながらそんな事を言う。
ヤマイノシシと言うのは、魔界…大陸西部に生息するイノシシの一種で、少し筋っぽいけど、しっかりとした旨味があって美味しいんだ。
「あぁ、そう言うんだってね。先月、遠方から来たっていう商人に勧められて仕入れてみたんだが、たちまちウチの人気メニューさ」
それを聞いていた宿の女将さんがそんな事を言って豪快に笑う。
私も昔、あそこがまだ魔界だった頃には時折サキュバスさんが出してくれた料理に使われていて食べたことがある。
噛むとジュワッと肉汁が出てきて、それがソースや甘い野菜と絡まると絶品なんだ。
「何でも、西部大陸のイノシシだって言うじゃないか。それだと、あまり数が捕れないだろうから、そこが残念だね」
女将さんはそう言って肩をすくめてから、私達が注文した料理を置いて
「ゆっくり楽しんで行ってくんな!」
と言い残すと、そのまま台所の方へと姿を消した。
西大陸で動物の数が多く捕れないのは、土の民である元魔族の人達は、ほとんどの場合、自分達で消費する以外の獲物を獲らないからだ。
だから、こうして市場に出回ることは珍しいし、数も多くはない。さすがに旅宿の女将さんらしく、各地の事情はいろいろと手にしているんだろう。
そんな女将さんの後ろ姿を見届けてから、零号ちゃんがこっそりとテーブルに羊皮紙を広げ始めた。
そこには、今日聞いた情報がびっしりと書き込まれている。
羊皮紙に目を落としながら、零号ちゃんは言った。
「まずは情報を整理しなきゃね。みんな、聞いた話で気になったことをここで出し合って行こう」
正直言って少し驚いた。零号ちゃんが率先して場を切り盛りしようとするなんて考えてもみなかったからだ。
これは、もしかしたら隊長さんの影響なのかな…?
「そうですね…新しい手掛かりへの道標を探さなくては…」
零号ちゃんの言葉に、竜娘ちゃんもイスに腰を据えなおす。二人の様子に、私も気合いを入れ直した。二人ばかりに任せてはいられない。
考えたり推理したりするのは、私だって得意なんだ。
「若い力だねぇ」
そんな私達を見て、大尉さんがそんな茶々を入れてくるけど、私達はそんなことを気にせずにそれぞれが今日のことを思い出し始めていた。
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