849: ◆EhtsT9zeko[saga]
2015/11/16(月) 01:02:36.60 ID:1hRSULfgo
「明日は、漁師さん達が仰っていた市場に足を延ばして聞き込みをさせていただけませんか?」
竜娘ちゃんは、私達へ気を使ってかそんな言い方をする。すると十六号さんがあはは、と声を上げて
「何か掴める可能性ありそうだしな。行くっきゃないだろ」
と、あくまでも私達みんなの問題だ、と言い換えるように言う。
確かにこれは竜娘ちゃんのお母さんを探すための旅だけど、それでも、私達はみんな自分のお母さんを探すくらいの心持ちでいる。
けっして、竜娘ちゃんの旅にただ帯同しているだけ、なんて気持ちはさらさらない。
そんな私達の気持ちを十六号さんの言葉で理解してくれたのか、竜娘ちゃんは「ありがとう」ではなく、私達の顔を見て
「…はい!」
と力強く言って頷いた。
それが二つ目の手掛かりだ。そして、もう一つ。私が微かに引っ掛りを覚えた話があった。
私は、会話が途切れたのを見計らって、竜娘ちゃんに聞いた。
「ねぇ、竜娘ちゃん。竜娘ちゃんのお母さんは、お勉強とか得意だった?」
「べ、勉強…ですか…?」
私の質問に、竜娘ちゃんは少し戸惑った様子でそう言い、それでもそれから、視線を宙に泳がせる。
「…得意だったかどうかは分かりませんが…確か、お屋敷の従者の方達に手習いを説いていることはありました」
竜娘ちゃんの答えに、私は、自分の中で何かが繋がるのを感じた。
「幼女ちゃん、何か気になることあったの?」
零号ちゃんが私にそう尋ねて来る。私は、そんな問いかけをしてきた零号ちゃんに、頭の中でもう一度繋がりを整理して、質問の意図を説明する。
「ほら、漁師さん達に話を聞いてから、商工業組合の事務所に戻ったときにさ」
私の言葉、全員の視線が集まった。
何人もの漁師さん達に話を聞いているうちに日が傾いて来たのを感じた私達は、船のたくさん浮かんでいた港を離れて、街の商工業組合の事務所に戻った。
事務所のおじさんは、約束通り戦争の前後にこの街にやって来て商工業組合の事務所が世話をした人達の中から、
昼間伝えた特徴に合う人を選んで書き記したんだという名簿を渡してくれた。
その名簿には、百を超える人達の名前が記されていて、それを見た竜娘ちゃんは複雑そうな表情を浮かべていた。
一人一人を探すには時間が掛かるだろう。でも、もしかしたら、表の中に竜娘ちゃんのお母さんがいるかもしれない。
手間が掛かっても一人一人に会って行く他にない。竜娘ちゃんはきっと、そんなことを考えていたんだと思う。
「あぁ、あの表のことだね。あれは数が多いけど…でも、立派な手掛かりになるよね」
零号ちゃんがそう言ってコクっと頷く。でも、私はすぐに言葉を添えた。
「ううん、それもあるんだけど、それだけじゃなくって…」
「名簿じゃ、なくて…?」
今度は大尉さんそう言って不思議そうに私を見つめてくる。
「うん。その後すぐ、事務所に来た人がおじさんに聞いてたじゃない?」
そう、それは私達が名簿を受け取り、お礼を言って事務所を出ようとしていたときのことだった。
私達と入れ違いになるように事務所へとやって来た若い商人さんが、おじさんと始めた話だった。
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