853: ◆EhtsT9zeko[saga]
2015/11/16(月) 01:05:53.24 ID:1hRSULfgo
「あぁ、見えてきたよ。あれが市場の建物だ」
不意に大尉さんがそう言って道の先に見えた建物を指差して言った。それは、白い屋根に白い土壁で出来た、随分と大きな建物だった。
外から見るだけでも太い柱が何本も使われているのが分かる。レンガや石造りではないけど、あれならきっと随分丈夫だろう。
「ん、魚の匂いもしてきたな」
「もう!十六お姉ちゃん、さっきからそればっかり!」
「良いだろ?旅ってのは各地の旨い物を食べる事を言うんだって、十三姉ちゃんが言ってたんだぞ?」
「そうかも知れないけど!今は竜娘ちゃんのお母さん探すのが先だよ?」
「あはは、分かってるって。仕事の手は抜かないよ」
十六号さんはそう言ってヘラヘラっと笑い、零号ちゃんのお説教を煙に巻く。
私はなんとなく、だけど、そんな十六号さんの言葉や振る舞いは、竜娘ちゃんのためなんだろうって感じていた。
本人がそう言ったわけじゃないけど、十六号さんは人の気持ちにとっても敏感だ。それでいて、お姉さん譲りの特別優しい気持ちを持っている。
さっきからの他愛のない話も、私と同じで竜娘ちゃんの緊張を解こうとしているに違いない。
それなら、と、私もその話題に、竜娘ちゃんも巻き込もうと声を掛けた。
「竜娘ちゃんは練干しと干物と、どっちがいい?」
すると竜娘ちゃんはほんの少し考えてから、
「練干しの方が食べごたえがあって好きです」
と会話に乗って来てくれる。そんな竜娘ちゃんの表情からは、昨日の夜に見たあの力強さが戻ってきているような、そんな感じがした。
程なくして、私達は市場だという建物のすぐそばにたどり着いた。市場にはこんな早朝だというのに、驚くほど多くの人達が詰めかけていた。
荷物を運んだり、魚が詰まった箱の山に人垣が出来ていたり、中には良くわからない言葉で声を張り上げている人もいる。
「あれ、人間界の…東大陸の言葉なんです?」
それを聞きつけたのか、妖精さんが大尉さんに聞く。
「あぁ、あれね。あれは競り、って言って、魚を買い取るためにどれだけお金を出すかを決めてるんだよ。
慣れないと何言ってるか分からないかも知れないけど、ちゃんと普通の言葉使ってるんだよ?」
「…でも、何言ってるか本当に分かんないよ。がなってるだけみたい」
「言葉はちゃんと通じるから、大丈夫だよ」
苦笑いを浮かべる十六号さんに、大尉さんは笑顔で言った。
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