885: ◆EhtsT9zeko[saga]
2015/11/23(月) 22:39:59.72 ID:g/PD0yL+o
「またなんかあったみたいだな、あれ…」
「うん…お、お手伝いしようよ。ね?」
「兵長さん、大尉さん。何かあったんですか?」
私は十六号さんと零号ちゃんの言葉を聞いて、すぐに兵長さん達にそう尋ねた。すると、項垂れていた大尉さんが顔をあげて言う。
「ごめん…中尉がヘマした…」
それを受けた兵長さんが、難しい表情のままに私達に、重い唇を動かして教えてくれた。
「勇者様が脱走した…部屋から、シーツとカーテンで縄を作って…階下へと抜け出したようです」
そう言ってため息を吐いた兵長さんの表情は、今までに見たことがないくらい、疲労と無力感に支配された、弱々しい顔だった。
勇者様が脱走を…?!私はどうしてか、急に心臓が鷲掴みされたようにドクンと痛むのを感じた。無意識に、その感覚の出処を探る。
勇者様…ここに来るのをとても嫌がってた。理由は良く分からないけど…お姉さんに会いたくなかったのかな…?
それとも、また何か妙なことを考えているんじゃないだろうか…?
勇者様は、お姉さんに考え方がよく似ている。自分がいて迷惑だと思えば、辛くても孤独でも、自分の身を隠すような人だ。
何よりもまず、自分を犠牲にすることを考える人だ。
私には、勇者様がまた、何か私達のことを考えてここからいなくなったような、そんな気がした。
「あいつぅぅぅ!油断も隙もあったもんじゃない!」
途端に十六号さんがそう唸る。
「じゅ、十六お姉ちゃん!あの人は…悪い人じゃないよ!」
零号ちゃんはそう言うけれど、すぐに悲しそうな表情を浮かべて
「…たぶん…」
と一言言い添えた。
零号ちゃんにとって、勇者様への想いはやっぱり複雑なんだろう。でも…私はどっちかって言えば零号ちゃんの気持ちに近い。
勇者様は、悪い人なんかじゃない。お姉さんよりはちょっと飄々としたところがあるけれど、それでも責任感が強くて、ちょっぴり頑固で…
それでいて、不器用な人、だ。
ーーー探さなきゃ…
私の脳裏に、そんな言葉が浮かんだ。放っておいたら危ないことをするかもしれない、って言うんじゃない。
私は…勇者様をひとりぼっちになんてしてはおけない…!
「手分けして探そう。まだ遠くには行ってないと思う」
私は、誰となしにそう言った。
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