929: ◆EhtsT9zeko[saga]
2015/12/14(月) 00:39:18.83 ID:jGgpJsLto
「あの、姫ちゃんの離乳食もついでに届けようと思うんですけど、出来てます?」
「あぁ、そっちはもう出来てるよ」
「なら、先にそれを届けて来ます」
「いいのかい?」
「はい。姫ちゃんの様子も気になるし」
私が答えると、給仕長さんは片方の眉をあげて驚いたような顔を見せ
「やっぱり、あんたは偉いね。立派だよ、その気遣い」
なんて、褒めてくれた。
照れながらお礼を言っている間に、給仕長さんは姫ちゃんの離乳食を乗せたワゴンを私の前に引っ張って来てくれる。
私はもう一度お礼を言って、そのワゴンを引き、厨房の自由戸を開けて出た。
廊下に出て、お姉さんと姫ちゃんの部屋に続く廊下をワゴンを押しながら歩いて居ると、
不意に後ろから鎧が擦れ合うガチャガチャという音と、バタバタという足音が聞こえてきた。
振り返るとそこには、親衛隊第一班の班長、鳥の剣士さんが部下の人数人を引き連れて小走りに駆けている姿があった。
「お、こりゃ、お忙しい従徒ちゃんじゃないか」
鳥の剣士さんはそんなことを言って足を緩める。それからすぐに
「先に向かっていてくれ」
と部下の人達に声を掛けた鳥の剣士さんは、私の前でピタッと足を止めた。
「姫ちゃん達はどうしてる、従徒ちゃん?」
「幼女ちゃんって呼んでよ、一班の班長様」
私は鳥の剣士さんにそう言い返してから、
「姫ちゃん、今日はようやく落ち着いててご機嫌だよ」
と答える。すると鳥の剣士さんはニコっと笑顔になった。
鳥の剣士さんが率いる親衛隊第一班は、主に議長であるお姉さんの警護にあたっている。
第二班は執政官の人達を、第三班は私達従徒の身の回りを守ってくれていた。私達が三班の班長さんと親しいのはそれがあるからだ。
反対に、お姉さんの身辺を警護している鳥の剣士さんとは生活の時間が合わなくって、こうして時折廊下ですれ違うくらいのことしかない。
虎の小隊長さん達、元魔王軍の突撃部隊の多くは巡検隊として各地に散ってしまっているからなのか、
鳥の剣士さんはすれ違うだけのこんなちょっとの時間でも、懐っこく足を止めて話しかけてくれる。
「そっか。なら良かった。十六号ちゃんにもチラッと話を聞いたけど、みんなも大変なんだってね」
そう言えば、十六号さんはお姉さんの小間使いに引き立てられているから、鳥の剣士さんとも顔を合わす機会が多くなっているに違いない。
「うん。まぁでも、みんなに比べればなんてことないよ」
私が答えたら鳥の剣士さんは嬉しそうに笑って
「そりゃぁ、頼もしい限りだ」
なんて言ってくれた。
それにしても、鳥の剣士さんがお姉さんから離れて移動しているのは珍しい。だいたいは何人かの部下を連れてお姉さんにくっついているはずなんだけど…
「お姉さんと一緒じゃないなんて珍しいね。何かあったの?」
私はふと浮かんだそんな疑問を鳥の剣士さんに尋ねてみる。すると鳥の剣士さんはああ、と思い出した様に
「盗賊団らしい人相をしたやつが城下に居るって防衛隊の連中から連絡が来てね。議長サンの指示で、街の警戒強化さ」
と教えてくれる。
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