923:名無しNIPPER[saga]
2015/02/04(水) 20:02:48.63 ID:NU/OAWaV0
12月1日
浜村さんの風邪は治った様子だった。ただ、周囲への伝染の恐れからもう一日だけ安静にしているよう伝えておいた。
引き続きガーデニングショップ通りの処理を私と井門さんで行った。あまり記載すべき内容はない。どちらかというと処理というよりは、亡骸の焼却処理に追われたよう形だ。それに専念できるということは、やはり都市の安全は高まったといって差し支えはないだろう。
そういう状態だからか、今日処理を追えて拠点に戻ってからしばらくした時、生存者がふらりと拠点近くに寄ってきた。いろいろ汚れたロングコートにそれに合わせたつばのついた帽子をかぶり、手には小さめのチェーンソーを持っていて、残念ながらはたから見て友好的とは言いがたい格好をしていた。
その時警備をしていた鎌谷さんが私を呼び、その男と話しに向かう。バリケード越しで話してみると意外にまともな調子で、何か食料はないか、代わりにこちらが持っている物資と交換してほしいと交渉してきた。何を持っているかと聞くと、コートを広げて見せる。
その中には弾薬や火器がしまい込まれていて、おたくらも火器はあるみたいだが、こんなにはないだろとかっこつけたように鼻で笑う。本物かどうかを疑い、少しの間が開いた後に男は銃を抜き、化け物がいるじゃねぇかと銃口を、スライムに向けた。
あわてて射線上に入り、あの生き物は人間には無害だと説明するが、いいや、すべての化け物は殺すべきだと男が熱を上げ、嫌な予感が頭をめぐったその時だ。
一之瀬さんが、更に自分の前に出て、それなら私を撃ち殺してくださいと、凛とした声で男に告げた。
男は何を馬鹿なとたじろぐと、あの子はいい子です。私達の言うこともわかります、意思や感情もあります。もし、あの子が元々人間だったなら、望んであの姿になりたかったとは思いません。それでもあの子を化け物だから殺すというなら、まず私を殺してください。とまくし立てた。
しばらくの間沈黙が続き、男は銃を下ろした。警戒自体は解かない、隙を狙っている可能性があったからだ。鎌谷さんに適当な食料を見繕ってもらうように頼み、ただ静かににらみ合うように男を見る。
交渉自体は終わった。インスタント食品類と弾薬をいくらか交換した。男は、交渉が終わった後、素直に熱くなって悪かったと詫び、家族が、ゾンビじゃなくそういう化け物に殺されたもんだからなと、呟いた。名を聞くと、ハンター、化け物を殺す狩猟者ってとこだよと、最初に対面した時のように、格好つけたように笑って去っていった。
彼を見送りながら、前の放浪者と同じように孤独な人間なのだなと感じられた。それに、彼にとってその化け物を殺すまでは、きっと放浪の旅は、終われないのだろうから。
山中沙奈記す
1002Res/599.32 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。