過去ログ - 水本ゆかり「恋の話、聞いてもらえませんか」
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1: ◆J6sXPQ/xjk[saga]
2014/10/18(土) 23:31:37.78 ID:RVCS1fR3o

P→

 口元に運びかけたカップをソーサーに戻す。突然の恋愛相談、紅茶など飲んでいる場合ではない。スプーンがかちゃりと音を立て、時計の針がチクタク進む。静かな店内は思考を巡らせるには最適だった。恋の話、恋の話とな。一応、念のため、まさかとは思うが聞いてみる。

「魚の話」

「ふふっ、言うと思いました」

 生クリームの乗ったケーキにフォークを差し込みながら、ゆかりは上品に微笑んだ。まあ、違うよな、鯉の話ではあるまい、恋の話に決まっている。男女が喫茶店で向かい合い、ほっと一息ついてから神妙な顔つきで「思ったほど泥臭くなくあっさりしていて美味しい」なんて会話はしないだろう。あまりにも不自然だ。しかし出来れば俺としては、たとえ不自然だとしてもお魚トークであってほしかった。アイドルが担当プロデューサーに対して「実は好きな人が居るんです」なんて、それは、端的に言って、悲劇じゃないか。死人が出るぞ。
 動揺する俺とは対照的に、ゆかりはいつもの通りに落ち着いていた。小さく控えめな所作でケーキを口に運び、甘さとふわふわ感を味わうようにゆっくりと咀嚼する。良家のお嬢様であることが丸分かりなその居住まいは、見惚れるほどに可愛らしかった。ゆかりはいつだって可愛い。ああ、恋の話、聞きたくない。

「好きな人が、いるんです」

 音を立てないように気をつけながらフォークを置き、ゆかりがそう切り出した。駄目な感じだ。聞きたくないと駄々をこねるなんてもちろん出来ないまま、恋の話が始まる感じだ。窓の外に見える晴れた秋空に、せめて死人が出ないよう祈ってみる。

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