過去ログ - 水本ゆかり「恋の話、聞いてもらえませんか」
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10: ◆J6sXPQ/xjk[saga]
2014/10/19(日) 23:31:15.07 ID:0gxa3WZjo

 言いたいことだけ早口に言って、私はそそくさと立ち上がりました。身勝手ながら、プロデューサーが言葉を紡ぐのが、怖かったんです。希望を持っていたかったんだと思います。返事を聞きさえしなければ、まだチャンスがあると思っていられる。子供じみた、それこそ笑ってしまうような浅はかな考えだと、自分でも思います。

「ゆかり」

 歩き出そうとした私の足は、プロデューサの呼ぶ声に縫い止められました。心なしか先ほどよりも、語調が強くなっていたような気がします。聞こえないふりをして出口に足を進めることは、出来ませんでした。感じの悪い子だと思われたくないという心情に加えて、正直、期待もしていました。

 プロデューサーの気持ちを聞いても傷つくだけだと分かっているけれど、それでも、もしかしたら。私の手を取って、「好きだよ」なんて、そんなことを言ってくれるのではないかって。

 振り返ることも出来ないまま、次の言葉を待ちます。椅子の脚が床を擦る音がして、プロデューサーが立ち上がったのだと背中越しに分かりました。私の足は、気を抜くと膝が笑ってしまいそうです。

「ときどきゆかりは、先へ先へってどんどん進もうとする」

「すみません。ですが、恥ずかしくて」

「とりあえず、テーブルの上の財布はしっかり鞄にしまってから行こうな」

 ちらりと視線を注いだ先、磨かれた木目模様の上に、ケーキのお皿と紅茶のカップと、置き去りにされたお財布が一つ。それなら、私は先ほど荷物をまとめた際に、いったい何を鞄の中に確認したのでしょうか。既に火照っていた頬が、さらに熱を帯びるのが感じられました。

「あっ、ケーキと紅茶のお代を……」

「いいよ、誕生日プレゼントその一って事で」

 今しがた恥をかいたことも忘れて、その二もあるのかと期待してしまいます。


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