16:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2014/11/05(水) 20:41:42.39 ID:7XpzpOnTO
彼女はベランダに植物を移した。
僕のベランダは午前の間は陽が射すけれど、午後になるほとんど日陰なる。
別にそれでもいいなら自由に使ってもらって構わなかった。
その日から彼女は今まで以上の頻度で僕の部屋を訪れるようになった。
彼女は持ち込んだ黄色くて小さなジョウロで夢の花に水を与えていた。
それから二人でアイスや僕の地元から送られてきた果物を食べたりした。
もちろん映画も見たし、どうでもいい話もした。
彼女は自分の趣味や価値観の話はしてくれたけれど、自分の過去の話については全く話さなかった。
僕は彼女についてもっと知りたいと思ったけれど、そのせいで今の日々が少しでも変わってしまうのが怖かった。
そんな予感を表皮の裏側で感じていた。
今になって、僕は彼女の口から聞くべきだったと思う。
何よりも彼女の口から聞きたかったと思う。
「ねえ、あなたの叶わなかった夢はなに……」
ある時、彼女は僕に訊ねた。
いつもの映画のいつもの場面を見て泣いた後だ。
試験がようやく全て終わり、長い夏休みがようやく始まった頃だ。
夢の花は健やかに成長していて、小さな蕾を一つ付けていた。
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