15:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2014/11/21(金) 02:21:52.61 ID:FzFnVzG60
聞き耳を立てるのはそこまでにして、私は吸いさしを床に落としてブーツで踏み潰した。
徐々に喧騒を取り戻していく将校クラブを尻目に歩き出す。
将校クラブから私のアパートに帰る道はいくつかある。
私はまず人通りのある明るい大通りから帰ろうかと思ったが、すこし夜風に当たりたくなったのでいつもより遠回りすることにした。
それにしても冷える。
手袋越しの手はかじかみ、ポケットに突っ込んだものの寒さはまぎれない。
襟を立てて寒さを防ごうとするも風は容赦なく私の顔に纏わりついた。
下を向き、あれこれ思案する。
非番を楽しもうとかゆっくり休もうとかいう気分にはなれない。何しろ奴等に我々はまったく歯が立たないのだから。
この町は西部に位置しているのでまだ落ち着いているが、東部の町はひどい騒ぎだろう。
まばらではあるが、時々他国の兵士ともすれ違う。この町にも国際戦争の影は忍び寄りつつある。
彼らの言葉はあまりよく分からないが、やはり一様に暗い顔をしていた。
下を向いてあれこれ思案しながら歩いていると、ふと周りの空気が変わったような気がした。
「将校さん、遊んでかない?」
娼婦!私はいつの間にか娼館街に入っていたようだ。
「慰めてあげる」
寒いのに妙に生暖かい地区である。私はちょっと後悔したが、いっそのことどこかに入ろうかとも思った。
しかし、昼間拾った独立系の新聞の投書を思い出して止めた。政府の統制もゆるくなってきた今、軍を批判しても逮捕されることはない。
そしてその新聞投書には軍への不満や恨みが綴られていたのだ。
「軍人さん!いい娘揃ってますよぉ」
もみ手をするこの客引きも内心我々を憎々しく思っているかもしれない。そう考えると立ち寄る気にはなれなかった。
市民のほかに幾人か軍人がこそこそと入っていくのを見たが、彼らの背中には予想通り形容しがたい視線が突き刺さっていた。
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