過去ログ - 【ボカロSS】一人だけの歌姫 -SS速報VIP

過去ログ - 【ボカロSS】一人だけの歌姫

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56: ◆L.H4zceswM[saga]
2014/11/18(火) 22:46:52.81 ID:UeB4vaiK0

「あー……もう、そんな事情あるなら大家さんも分かってくれるでしょう？　もういい加減出なさいよ。居留守使うには五月蝿すぎだし」

　そう腰を上げたメイコの身体を必死に掴む。それだけはさせてなるものか！

57: ◆L.H4zceswM[saga]
2014/11/18(火) 22:48:15.00 ID:UeB4vaiK0

　ああオワタ。完全にオワタ。さようなら、わたしの平穏な人生。せめてミクにさよならだけは言いたかった。友達にさよならも言えずに終わる人生なんて……。何の為に生きているか分からなかった人生だけど、お母さん、これからは波乱万丈の人生を送ることに――……あれ？

「あ、やっと出てくれた！」

58: ◆L.H4zceswM[saga]
2014/11/18(火) 22:49:26.27 ID:UeB4vaiK0

◆　　　◆　　　◆

59: ◆L.H4zceswM[saga]
2014/11/18(火) 22:51:01.17 ID:UeB4vaiK0

「でも良かった！　ハク、会いたかったよー！」

「あ、あの……わ、わたし……」

60: ◆L.H4zceswM[saga]
2014/11/18(火) 22:52:16.80 ID:UeB4vaiK0

「んじゃことの顛末はまた後日聞かせてねーー」

　そんなわたしを放置して（掴んだ手を蹴り飛ばして）、あろうことかメイコはすたこらさっさと玄関を出てってしまった。ああ、なんて薄情者！　裏切り者！　これでもミクの次には親友だと思っていたのに！

61: ◆L.H4zceswM[saga]
2014/11/18(火) 22:53:26.72 ID:UeB4vaiK0

「あはははははははは！　ハクのほっぺ柔らかいねー。五年前と全然変わってない」

「いきなりブルドック仕掛けてくるなんて酷いよミク！」

62: ◆L.H4zceswM[saga]
2014/11/18(火) 22:55:09.43 ID:UeB4vaiK0

　床に顔を直接つけそうなくらい、わたしは頭を下げた。ミクにあったら、まず謝ろうと、それだけは心に決めていた。心臓がドクドクと鼓動する。途端、吐きそうなくらい胸が痛くなって来た。
　それでも、言わなくちゃいけない。喉の奥から、精一杯言葉を吐き出した。

「ごめん、ミク。わたし、ずっとあなたを騙してた。ずっと、歌手になるなんて夢見た嘘をついて、あなたを傷つけてた」

63: ◆L.H4zceswM[saga]
2014/11/18(火) 22:56:17.13 ID:UeB4vaiK0

「なんで……なんで謝るの？」

「だって、わたし、ミクを……」

64: ◆L.H4zceswM[saga]
2014/11/18(火) 22:57:58.05 ID:UeB4vaiK0

　なんて、馬鹿なことだろう。

「ごめん、ミク。ううん……ありがとう」

65: ◆L.H4zceswM[saga]
2014/11/18(火) 22:58:49.03 ID:UeB4vaiK0

「あ、でもさあ、どうしてここに来たの？　その、ミクって色々忙しいんじゃ……」

「あー……はは、まあちょっとマネージャーとケンカしちゃって……」

66: ◆L.H4zceswM[saga]
2014/11/18(火) 23:00:26.88 ID:UeB4vaiK0

　ボロボロになった黄色いノート。ゴミと一緒に、記憶の彼方に封印した筈なのに、何でよりよって、今日この時に顔をのぞかせてくるのだろう。思考が止まり、言葉を吐き出すことが出来ない。
　無言でミクがページをページを捲る音が、まるで遠くから聞こえるような気がした。

67: ◆L.H4zceswM[saga]
2014/11/18(火) 23:01:23.87 ID:UeB4vaiK0

「……ごめんね、ミク。あんまり、詳しく言いたくないけど、わたし、もう、歌を歌える程長く声を出せないんだ。喋って、分かったでしょ？　ちょっとおかしい声だなあって。わたしの喉、もう、歌うことは出来ないんだ」

　喉が震えるのは、多分痛みのせいだけじゃない。言わなくちゃいけないことなのは分かっていた。けれど、いざそれを伝えると、心の底から震えが起きて来る。忘れていたこと、忘れようとしていたことが、否応無く頭をよぎる。

68: ◆L.H4zceswM[saga]
2014/11/18(火) 23:02:29.88 ID:UeB4vaiK0

　◆　　　◆　　　◆

69: ◆L.H4zceswM[saga]
2014/11/18(火) 23:03:27.48 ID:UeB4vaiK0

　言葉は闇に響くこともしなかった。言葉を吐き出すよりも前に、その黒い影がわたしの首を握り締めた。息が出来ない。まるで深い海の底に沈んで行くかのように、身体が重くなる。

　嫌だ、嫌だ、嫌だ！

70: ◆L.H4zceswM[saga]
2014/11/18(火) 23:04:54.44 ID:UeB4vaiK0

　闇の中で心配そうにわたしを見つめる翠の瞳に、泣いた顔の頬が緩む。

「大丈夫、ちょっと、悪い夢を見ただけだから……」

71: ◆L.H4zceswM[saga]
2014/11/18(火) 23:08:21.46 ID:UeB4vaiK0

　◆　　　◆　　　◆

72: ◆L.H4zceswM[saga]
2014/11/18(火) 23:10:10.23 ID:UeB4vaiK0

　そうして口にした朝食は、とても美味しかった。ああ、と言うか、なんだろう、とても久しぶりにこんな気分を味わった気がする。
　安心して、胸の内がじんわり温かくなって、それでいて、少しくすぐったくなるような、そんな気分。
　しかし悲しいかな、ミクの料理がここまで上手いとは。始めに姿を見た時から思ったけれど、女子力も完全に負けている。

73: ◆L.H4zceswM[saga]
2014/11/18(火) 23:11:13.04 ID:UeB4vaiK0

「ミク、相変わらずネギ好きなのね」

「当然」

74: ◆L.H4zceswM[saga]
2014/11/18(火) 23:12:33.78 ID:UeB4vaiK0

「え？　私のこの荷物見ても分からない？」

　そこで初めてミクの横に見慣れぬ黒いボストンバッグを見つけた。中身がぱんぱんに詰まっていて、今にもはち切れそうになっている。

75: ◆L.H4zceswM[saga]
2014/11/18(火) 23:13:21.45 ID:UeB4vaiK0

今回はここまでです。

76:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2014/11/19(水) 12:42:43.54 ID:LA3G0knDO
乙

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