過去ログ - 【安価】京太郎「プロになったはいいけれど……」 第36位【アラフォーマーズ】
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13: ◆rVyvhOy5r192[saga]
2014/11/23(日) 21:03:02.88 ID:r419l1wso


 そんな掲示板から同時か、或いは前後して……。

 ――東京都、練馬区。


「お待たせしました、エスプレッソです」


 気配を感じさせぬ足取りの青年が、静かにコーヒーカップをオーク製のテーブル上へと差し出した。

 刈り上げ頭の中年男性は無言で会釈しそれを受けとると、磨かれたスプーンを摘まんで黒い水面に波紋を立てる。

 その間に、青年はその場を離れていた。軽やかな足取り。

 滑らかに色を沈める黒色のカマーベスト。染み一つ無い白色のウィングカラーシャツの首許からは、くすんだ赤色のタイが逆扇形に胸元まで垂れる。

 黒いズボンのウェイターの出で立ち。銀盤を抱えたその姿は、しなやかな手足の長身と合わせて実に様になっていた。

 だというのにも余りにも――気配が薄い。

 店名が冠した西洋骨董家具を思わせる格調のある、しかし決して嫌味過ぎない店内の色に実に合っている。それこそ絵や背景の一部だ。

 良く見れば断じて自己主張に乏しき平凡な外見などではなく、整っていると言っていい目鼻立ちであるのだが……。

 ある意味では、見事に喫茶店の店員をしていると言える。


「店長、買い出しに行ってきます」


 目の細まった、人の良さそうな笑顔の初老の男性――店長に笑いかける青年。頭を下げて、静かに店を後にする。

 その後ろ姿を眺めていた黒髪の同僚は、青年の名を呟いて店長である白髪の老人に問い掛けた。

 客足がある程度落ち着いたが故に、ふと手持ち無沙汰になったのである。 


「ずっとアルバイトをしてるんですか?」

「いや、社会人をしていたけど……身体を壊しちゃったようだね」

「身体を……」


 再び呟く。

 読書家のその店員は、改めて青年を思い返し値踏みする。これが小説ならば彼はどんな形容詞で語られるだろう。

 月並みであるが――「猫科の猛獣のような」であろうか。

 人間には二足歩行特有の淀みや溜めがあるというのにまるで重力を感じさせない、しなやかな同僚店員の足運びを思い返しながら青年と呼ぶにはまだ年若い風情の少年は首を捻った。

 同僚の金髪の青年が、身体を何処か庇っている風には見えなかったのだ。

 ただ、あの柔和な笑みの向こう側には何かしらの苦悩があったのだろう。自分のそれと同じように。

 黒髪の少年は、眼帯越しに瞳を押さえた。



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