過去ログ - 【安価】京太郎「プロになったはいいけれど……」 第36位【アラフォーマーズ】
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14: ◆rVyvhOy5r192[saga]
2014/11/23(日) 21:03:53.90 ID:r419l1wso



 段々と秋模様から、冬へと様相を変える街路樹の元を忙しなく人々が行き交う。

 並木で整えられた街角はしかし、大型の液晶ディスプレイや蛍光色の看板や電光掲示板や雑居ビル等と合間って、何とも奇妙な外観を整える。

 その一角で、ある店のウィンドウを前に足を止める人影があった。


「あらら、ここも禁煙か」

「よ、シゲさん」


 シゲと呼ばれた白髪の老人が青年を視界に収め、煙草を片手に困った風に眉を寄せた。


「今日日はどこも吸えないな」

「そりゃまあ、麻雀界も長らくイメージアップを図ってますからね。煙草だの酒だのからは、離れたいんじゃないですか?」


 街頭の大型ヴィジョンに映される、衣装を身綺麗に纏めた女性麻雀プロを片目に青年は苦笑した。

 街のあちこちの美化が叫ばれた今日では、それこそ喫煙者は肩身が狭い。

 青年も嘗ては小洒落た煙管などを片手にしていたものだが、職を辞すにあたって全て処分ずみ。紫煙なんてのは、喫茶店の客のものしか目にしない。


「美化もいいが、足りないな」

「足りない……ですか?」


 聞き返す青年の言葉に、老人は仄暗い緊張感と、えも云えぬ棘棘(おどろおどろ)しさの混じった幽鬼の微笑。


「懸けているという感覚が……! ひりつくスリルが……博打が足りないっ……!」


 危うさを孕んだ喜悦の収まる老人の哄笑。

 好好爺という風情ながらも、醸し出される雰囲気には只者ではない――――人智を超えた闇の領分が覗く。

 しかし対する青年にも慌てた様子はなく、ただ意味深なその目線を書き消すが如く顔の前で手を振った。


「いや、そう言われても……俺、麻雀は打てないんで」

「ほう」

「医者から、身体に悪いから止めろって言われたんスよね」


 真実とも冗談とも取りかねる口調で青年が笑えば、老人も愉快そうに喉を鳴らす。


「そうだったな、京ちゃん」

「はい。……人気種目だから、残念ですけどね」

「あァ、残念だな……俺好みではあったんだけどな」

「……」


 老人のその声色は心底惜しむ響きあり、青年もまた無言で応じた。



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