過去ログ - 【安価】京太郎「プロになったはいいけれど……」 第36位【アラフォーマーズ】
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17: ◆rVyvhOy5r192[saga]
2014/11/23(日) 21:06:28.27 ID:r419l1wso


 ◇ ◆ ◇


「……ただいま、と」


 される事もない返事を理解しながら、青年は電灯のスイッチを倒した。

 十畳一間。

 キッチンはなく、風呂場とトイレに繋がる向かい合ったドアから玄関を正面にした手前側、廊下の半ばに調理場所がある。コンロは二つしかない。

 居間の隅に畳まれた布団と、段ボールから顔を出す幾ばくの本。

 家具と言ったらあとは部屋の中央に置かれた小さな茶色の四角いテーブルと黒いメッシュカバーの座椅子。パソコンもテレビもない。

 こじんまりと纏まった部屋。他には、維持費が掛かるのでバイクも処分した。


「あいつ、来てたのか」


 ベランダに出て洗濯物を取り込みつつ、空になった銀のトレーを見て笑う。

 初めて出会ったときはやけに警戒心が強い奴だったが、餌を食べるぐらいには打ち解けてくれたらしい――と、今この場にはいない短毛の奇妙な知り合いを思い返して京太郎は笑った。

 布団を敷いて、冷蔵庫のタッパー――作りおきされた炒めものを暖め直し手を合わせる。

 箸の音の他には、時々隣家の喧騒が聞こえる程度に静寂に充ちた部屋。


「御馳走様……と」


 手を合わせて、タッパーをシンクに並べる。

 代わり映えのない、無味乾燥な一日。今日と明日の違いなど殆ど存在せず、植物が過ごす時間の様に変化のない毎日。

 それでもこの生活は、平穏だった。

 軽くストレッチを済ませて布団に潜るまでには午後二十三時を回っていたが、それでもこれまでに比べたら随分早い就寝だ。


「麻雀、か……」


 虚空へと伸ばした指先が霞む。

 離れて幾ばくか。それは、あまりにも遠く隔たってしまっていた。

 暫し寝転がって開いた右手を見つめていたが、いつの間にか指先は丸まり、畳まれた肘。

 伸びを一つ、欠伸をして布団を被る。


「……ああ。今度、父さんと母さんの墓参りにも行かなきゃな」


 果たして休みは貰えるかと呟きながら、須賀京太郎は蛍光灯を落とした。


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