過去ログ - ビッチ(改)
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4:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/11/26(水) 23:43:51.45 ID:incPBixuo

「いいんですか?」

「うん」

 この時の僕は少女の整った可愛らしい顔を呆けたように眺めていたに違いない。

「多分降りる駅が違うから、そこの最寄り駅までしか送れないけど、それでもよかった
ら」


「ありがとう、じゃあお願いします」
 女の子が言った。「駅まで行けば売店で傘を買えると思いますから」

 僕は傘を開いて彼女の方に差しかけた。彼女は遠慮がちに僕の方に身を寄せてきた。

 その朝、僕は偶然登校中に出会った女の子を駅まで送っていったのだった。彼女と出合
った場所から駅までは十分もかからない。駅に着くまでの間、僕は何を話していいのわか
らなかったし、傘に入れたくらいで馴れ馴れしく振る舞う男だと思われるのも嫌だった。

 そして彼女の方も特に何を話すでもなかったので僕たちは傘に強く降りかかる雨の中を
無言のまま駅に歩いて行った。

 駅の構内に入ると傘を叩いていた雨音が突然途切れ、通勤通学客でにぎあう構内の騒音
が僕たちを包んだ。僕は傘を閉じた。そのままお互いにどうしていいのかわからない感じ
で僕たちはしばらく黙ったまま立ちすくんでいた。

 やがて彼女は僕の側から離れ恐縮したようにお礼を言ってから、僕とは反対側のホーム
に向うエスカレーターの方に去っていった。

 僕はその場に留まってしばらく彼女の方を眺めていた。その時ふいにエスカレーターに
立っていた彼女がこちらを振り向いた。少し離れた距離で僕たちの視線が絡み合った。

 僕が狼狽して彼女から視線を逸らそうとした時、初めて少し微笑んで僕の方に軽く頭を
下げている彼女の姿が僕の目に入った。

 学校の最寄り駅に着いて電車を降りる頃には突然の雨はもう止んでいた。その雨は天気
予報のとおり突然集中的に振り出し突然降り止んだようだ。

 これが夏ならこういうこともあるだろうけど、十二月もそろそろ終るこの季節にこうい
う天気は珍しい。でも夏と違って雨の後に晴れ間が広がったりはせず、天気は雨が降り出
す前の暗い曇り空に戻っただけだった。

 僕は閉じたままの傘を抱えて学校に向う緩やかな坂道を歩き出した。

 確かに嫌な天気だったけど、あそこで突然に強い雨が降り出さなければ僕があの子を傘
に入れて駅まで寄り添って歩くこともなかった。

 今思い出そうとしても今朝出会った少女の顔ははっきりと思い浮んではくれなかった。
無理もない。最初にこちらを驚いたように振り向いた時以外は僕は彼女の顔を直視できな
かったのだから。

 それでも僕は名前すら知らない少女に惹かれてしまったようだった。ただその甘い感傷
の底の方にはひどく苦い現実が隠されていたことにも気がついてはいた。

 いくら僕がさっき出合った少女に惹かれようがその想いには行き場がないのだ。僕は彼
女の名前も年齢も学校も知らないまま彼女と別れたのだから。

 時折思うことだけど、僕がこんなに内向的で自分に自信のない性格でなければ、例えば
同級生の渋沢のように相手の女の子にどんなにドン引きされても図々しくメアドを交換し
ようとか積極的に言えるような性格なら、ひょっとしたら今頃僕は今朝出合った少女のア
ドレスを手に入れていたかもしれない。

 そして僕がそういう社交的で積極的な性格に生まれていたら、ひょっとしたら妹との
関係だって今とは違っていたかもしれない。あの妹だって理由もなしに僕のことを毛嫌
いしているわけではないだろう。多分うじうじしていてはっきりしない僕の性格を妹は
心底嫌っているのだろう。


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