5:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/11/26(水) 23:46:12.90 ID:incPBixuo
でもそれは考えても仕方のないことだった。
「何でそんなに暗い顔してんだよ」
教室中に響くような声で渋沢が話しかけてきた。いつもより早目に教室に入ったせいで
登校したた時には教室内にはまだ誰もいなかった。
それで僕は自分の席でさっきの少女との出会いを思い返していたのだけど、そんなこと
をしている間にいつのまにか登校してくる生徒たちで教室は一杯になっていた。
僕は登校してきて隣の席に座ったばかりの渋沢の方を見た。
「何でもないよ。つうか僕、暗い顔なんてしてるか?」
「してるしてる。おまえってもともといつも暗い顔してんだけどよ。今日は特にひどい
よ」
「まあ、昨日もちょっと家で揉めたからね」
僕は少し苦々しい声でそれを口に出してしまったようだった。渋沢の表情が真面目にな
り声も少し低くなった。
「それは悪かったな」
「いいよ、別に」
「おまえ、また義理の妹と喧嘩したの?」
「僕は別にそんな気はないけどさ。あいつがいつもみたいに突っかかって来たから」
「それでまた気まずくなちゃったってことか」
「まあね」
そこで渋沢は少し真面目な顔になった。
「前にも聞いたけどさ。何でおまえの妹ってそこまでお前のこと毛嫌いするのかね。ここ
まで来るとおまえが言ってたみたいにおまえの性格が気に入らないだけとも思えねえよ
な」
「知らないよ。あいつに嫌われてるって事実だけで十分だろ。原因なんてあいつが言わな
きゃわかんないし」
「ひょっとしたらさ。そういうおまえの淡白な態度に問題があるじゃねえの」
「・・・・・・どういうことだよ」
「うまく言えねえけどさ、おまえの妹って何かおまえに気がついて欲しいこととかがあっ
てわざと突っかかって来てるんじゃねえかな」
それが正しいかどうかはわからないけど、渋沢の言っていることは僕がこれまで考えた
ことがあった。あいつが何かを訴えている? そのために僕に辛く当たっている?
そうだとしても僕にはあいつが僕に訴えたいことなんか見当もつかなかった。
「ひょっとしたらさ。おまえの妹っておふくろさんとおまえの親父の再婚のこと面白く思
ってないんじゃねえのかな」
それは僕もこれまで何度も考えてきたことだったから、それについては僕は渋沢に即答
できた。
「それはない。あいつは僕の父さんとは普通に仲がいいんだ。だからあいつが僕を嫌って
いるのは父さんたちの再婚とは別の話だと思う。だいたい再婚って言ったってもう十年く
らい前の話しだし」
「じゃあ、やっぱりおまえに原因があるんだ」
渋沢がさらに話を続けようとした時、担任が教室に入って来た。
渋沢に義理の妹の話を持ち出されて僕は思わず真面目に答えてしまったけど、妹の態度
については昔からなので僕はそのことについては半ば諦めていた。
妹とのことは別に今に始ったことではない。僕にはどこかで僕とは無縁に生活している
はずの実の母親の記憶はないし、物心ついた頃から今の家族と一緒に生活してきたのだ。
だから僕は母さんが自分の本当の母親ではないなんて考えたこともなかった。
去年のある夜、僕と妹が両親に呼ばれて初めて事実を告げられた日、僕はその時に自分
の本当の母親が他にいることを知って動揺したのだけど、妹はその時もその後も別にたい
して悩んでいる様子はなかった。
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