過去ログ - 低俗霊iDOL@TRY -SS速報VIP

過去ログ - 低俗霊iDOL@TRY

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1:saga[sage]
2014/12/10(水) 18:45:15.37 ID:0qtYvrwTo
最初に聞いたのは、学校だった。

「ねぇ春香、首吊りマンションって知ってる？」

随分と久しぶりに会った気がする友人は唐突にそう切り出した。
思わずきょとんとしてしまった私に友人は畳み掛ける。

「学校に来る途中にさ、廃ビルがあるでしょ？あれ、元々はマンションだったらしいんだけど……」

「ちょ、ちょっと待って？あの、なんで今そんな話するの？」

時刻は朝八時半。
これから授業が始まろうという今、何故私は良くわからない怪談を聞かされているのだろうか。
だが質問を受けた当の彼女は事も無げに言う。

「え、なんでって……今日行ってみない？って言おうと思って」

私の笑顔が音を立てて凍ったが、その音は私の中に響いただけで相手には伝わっていないらしかった。

hanging mansion-首吊りマンション

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2:saga[sage]
2014/12/10(水) 18:46:16.76 ID:0qtYvrwTo
次に聞いたのは事務所だった。

「首吊りマンション？」

と言っても、今度は私がフったのだけど。

3:saga
2014/12/10(水) 18:46:58.81 ID:0qtYvrwTo
だろうなーとは思っていたけど、これは参る。

「いや、あのね。行って帰ってくるだけでいいんだよ？」

「春香の友達の事を、私は知らないもの。気まずくなるだけよ」

4:saga
2014/12/10(水) 18:47:38.88 ID:0qtYvrwTo
「君みたいな可愛い子がこんな事してるなんて、びっくりだよ。いや……可愛いからしてるのかな？」

その男はたまたま街であっただけの人だった。
それなりに金を持っていそうだから声をかけて、今ふたりきりでここにいる。

5:saga
2014/12/10(水) 18:48:18.46 ID:0qtYvrwTo
「そのまま、そのままで。これ……」

男が差し出したのは縄だった。
先に輪がついている。
……テレビや漫画でしか見たことがない、首を吊るための……。

6:saga
2014/12/10(水) 18:48:56.82 ID:0qtYvrwTo
「ごめんね、ごめんね。きみがあんまりかわいいから。ごめんね」

男はそう何度も謝りながら自分自身を慰めている。
その手には同じ縄が握られていて、なんとなく私の隣で同じようにぶら下がるんだろうと思った。
頭にもやがかかり始める。

7:saga
2014/12/10(水) 18:49:32.59 ID:0qtYvrwTo
その日、午前中に事務所にいたのは私と真ちゃんだけだった。
あ、もちろんプロデューサーと音無さんはいたけど、アイドルは、って意味で。
プロデューサーと音無さんにはもう出していたから、真ちゃんの為にお茶を淹れる。
良い香り。これならオーケー。

8:やべっミスってた[saga]
2014/12/10(水) 18:50:22.15 ID:0qtYvrwTo
「いえ、ほんと申し訳ないです。深小姫さんが旅に出てなければ良かったんですが……」

柧武さんは本当に恐縮しているようで、さっきから何度も頭を下げている。
ここまで謝られるとこちらこそ申し訳ないが、真ちゃんは納得いかないようでまだ怒っている。

9:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/12/10(水) 18:51:03.12 ID:0qtYvrwTo
「あの……私の勘違いで無ければ、ですよ？アイドルの萩原雪歩さんと菊地真さんじゃ……」

「ああ、彼女達そっくりでしょ？良く言われるんですよ」

柧武さんが笑いながらフォローしてくれる。

10:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/12/10(水) 18:51:33.95 ID:0qtYvrwTo
口寄せ。
有名な所だと恐山のイタコだろうか。
死者の霊を自分の体に降ろし、自分の口を死者に貸して彼らの意志を伝える行為。
当然特殊な体質を必要とし、死者に近寄る分現実に帰還できない可能性を孕む危険な行為。
そして、それを生業にする者もいる。

11:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/12/10(水) 18:52:29.00 ID:0qtYvrwTo
柧武さんの車の中で衣装に着替える。
集中するための衣装……ある口寄せ屋の人に倣って身に付ける事にしている。
上からコートを羽織り、その場へ。

「この部屋です」

12:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/12/10(水) 18:52:57.13 ID:0qtYvrwTo
雪歩の目が虚空を見つめて止まる。
見えているんだ、ボク達には見えない者が。

「もういいですよ、管理人さん」

13:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/12/10(水) 18:53:44.53 ID:0qtYvrwTo
彼女の過ごした日々が見える。
ここは、彼女の住んでいた家だったのだろう。
両親と、姉。
四人家族で暮らし、そして死ん……

14:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/12/10(水) 18:54:21.84 ID:0qtYvrwTo
「惣一郎さん！もっと飛ばして！」

真ちゃんが運転席の後ろから柧武さんを煽る。

「目一杯ですって！これ以上は流石にまずいです！」

15:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/12/10(水) 18:54:54.81 ID:0qtYvrwTo
「ゆ、雪歩！？なんて格好して……」

はっと気付くと私はちゃんと地面に立っていた。
首に縄もかかっていない。

16:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/12/10(水) 18:55:29.43 ID:0qtYvrwTo
ぎぃいいい。

どんっ。

突然音がした。

17:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/12/10(水) 18:55:56.17 ID:0qtYvrwTo
『わたしよりかわいいわたしよりにんきだわたしよりわたしよりわたしより』

『あんたなんかしねばいいしねばいいしねばいい』

彼女は寂しくて私を呼んだんじゃない。

18:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/12/10(水) 18:56:25.37 ID:0qtYvrwTo
「雪歩……あの子、自由に出来る？」

「……出来るよ、春香ちゃん」

「なら、お願い。死んだ後も私にこだわる必要なんか無いよって、教えてあげて」

19:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/12/10(水) 18:56:52.35 ID:0qtYvrwTo
春香ちゃんの意識は元に戻ったようだった。
ひとつため息をついて、部屋の隅を見る。

「彼女は、ただの女子高生。悩んで、人を好きになって、嫌いになって、それだけ」

20:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/12/10(水) 18:57:33.80 ID:0qtYvrwTo
「もう、大丈夫なんですかね？」

柧武さんは怯えきっている。

「大丈夫です。もうあそこには何も残ってません」

21:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/12/10(水) 18:58:11.95 ID:0qtYvrwTo
「ねぇ、雪歩」

事務所に着いてすぐ、春香ちゃんに話しかけられた。

「……なに？春香ちゃん」

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