16: ◆VeVueAKr8Y[saga]
2014/12/16(火) 00:25:39.31 ID:CDIukalho
〜〜〜
春香が休んでいる事は、アイドルでは私しか知らない。
長期のロケだといえばみんな納得出来てしまうほどに私たちの仕事は増えているのでみんなが知るのはもっと後の事だろう。
あまり高くないこのビルの屋上からの見晴らしは良いとは言えない。
だけど、なんだか春香の心を見ているような気持ちになれた。
彼女はいまこの街の風景みたいに、どこか晴れない霧を抱えているのだろう。
「お前にも伝えるべきじゃなかったかもな」
振り返ると、プロデューサーが缶コーヒー片手に立っていた。
「そんなこと……私は知らせてもらえて嬉しいですよ」
差し出されたそれを、礼を言いながら受け取った。
「歌に向かう気持ちが強くなったから、か?」
プロデューサーの視線が突き刺さるような冷たく鋭利になものに変わった。
「そ、れは……悪いことですか?
私には歌しかないから、歌で誰かを……親友を救いたい、そう思うのはダメなことですか?」
「いや、ダメなんかじゃないさ。
ただ――本当にそう思っているならな」
違った。
プロデューサーの目は冷たいんじゃない。
なにもないんだ。
空虚というのともどこか違う。
感情というものだけが無かった。
ただ向けられる無感情の視線。
それがここまでも恐ろしいと初めて知った。
その目に見つめられたのはたった数秒。
「……千早? どうしたんだ?」
気がつくと彼の目の色は普段の優しいものに戻っていた。
「い、いえ……なんでもありません」
「そうか? 前も言ったけど、無理するなよ? 春香が戻った時にお前が疲労困憊だとあいつ悲しむからな」
不安を紛らわせるようにプロデューサーは笑っていた。
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