11: ◆Freege5emM[saga]
2014/12/20(土) 22:14:14.88 ID:dlUov/GTo
●10
私たちが籍を置くCGプロダクションは、休憩室にも大きな姿見が据えてある。
理由は分からないけど……アイドルたるもの、自分がどう見えているか常に意識しろ、ということか。
その姿見の前で、周子の背中が一人立ち尽くしているのを見かけた。
私は周子に声をかけようとして――凍りついた。姿見の中の周子と、目が合ってしまった。
「……んー? あ、奏ちゃん。おつかれー♪」
「お疲れ様。周子は、鏡を見てたの?」
周子も、鏡の向こうで固まった私に気づいたらしく、こちらを振り返った。
「そうだよー。あ、見てみて!
このルージュ、前に奏ちゃんが教えてくれたお店で見つけたんだよ♪」
周子が見せてくれたルージュは、淡く煌めいていた。
これを乗せた周子のくちびるは、どんな輝きを見せるんだろうか。
「それでは、お試しのところを邪魔してしまったかしら」
「そうかもね。なら邪魔しちゃった代わりに、奏ちゃんはあたしのリップのノリ具合を見ていくのだー!」
周子はくるりと鏡に向き直って、いつになく真剣な面持ちでルージュをくちびるに添える。
姿見の向こう側、鏡の中の世界があるなら、そこに映る私は私なのかしら。
そこで鏡面から私と見つめ合っているのは、本当にあなたなのかしら。
嘘なんじゃないか、と思ってしまう。
私が、あなたから切なくなるほど強いな眼差しを貰ったこと、今まで無かったから。
周子のくちびるにルージュが引かれる。
いっそ私の隙間を塗りつぶしてくれたら。あなたの、その色で。
私は、あなたのルージュになりたい。
(おしまい)
読んでくれた人どうも。
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