10: ◆Freege5emM[saga]
2014/12/20(土) 22:12:27.29 ID:dlUov/GTo
●09
また、ある日。東京に儚い雪がちらつく季節のこと。
周子は、白く丸い皿に並んだチョコレートを神妙な面持ちで見つめていた。
和菓子押しのイメージが強いので、洋菓子との取り合わせが新鮮に映る。
私は、黙ったままチョコとにらめっこしている周子を眺めていた。
やがて周子は、おもむろにチョコの一つを指先でつまむと、くちびるの間に差し入れた。
「……いい感じにできてるっ! これホントにあたしが作ったん?」
「それは周子が作ったのよ。私ではないわ」
「やった! シューコちゃん特製チョコレートー♪」
私は、周子の顔を見ていた。
緊張から歓喜への変遷は、劇的で鮮やかで、私は周子に魅入られてる。
「これで、バレンタインの仕事でもうまくできるわね」
「奏ちゃんのおかげだよー、奏ちゃん大好きー♪ うまくいったから、あたしの食べて食べてー!」
周子が勧めてくれた手作りのチョコは、外見は普通の甘いミルクチョコ。
口に入れると、甘さとともに、アクセントのシナモンが薫って、味を引き締める。
周子が出した、初心者なりの持ち味だ。
周子が私に相談してきたのは、バレンタインのチョコ作りについてだった。
近く本格的なバレンタイン絡みの仕事ようで、チョコを作ることになって、
周子は同時に組むアイドルに頼ろうと思っていたが、どうもてんで頼れない面子らしい。
ということで、去年のイベントで経験のある私に頼んできたそうな。
当時、練習すればなんとかなるだろうとしか考えていなかった私より、意識が高い。
「あたし……ラクしたいタイプだけど、自分がやらなきゃ! ってなったら、やるコだよ」
周子は真剣だった。
私は、チョコ作り練習の動機がアイドルの仕事関係で良かった、と安堵していた。
私は、手仕事なら最初からそれなりにこなすので、自分で器用な方だと放言している。
でも、周子の出来栄えを味わうってみると、周子も自賛して申し分ない手際だと思った。
「ところで、なんでバレンタインってチョコなんだろーね」
「チョコレートのように、甘くなって欲しいからじゃない? 二人の関係が、ね」
「……じゃあ、和菓子にもチャンスあるかもね?」
周子はキラキラとはしゃぎながら、くちびるの端に残ったチョコをぺろりと舐めた。
私のくちびるでは、あなたにそんな笑顔させられないだろうね。
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