過去ログ - キョン「ジバニャン散歩に行くぞ」ジバニャン「い、いきなりどうしたニャン?」
1- 20
1:名無しNIPPER[saga]
2015/01/03(土) 17:29:08.68 ID:H42Us67f0
【涼宮ハルヒの憂鬱と妖怪ウォッチ】





自分が「猫」だった頃、大好きだった人がいる。

太陽のようにまぶしい笑顔。己の頭を撫でる柔らかな手のひら。己の名を呼ぶ凛としたその声。
注がれる全てが優しさに溢れていた。

『よーしアカマル、散歩に行くわよ!』

そんな彼女、涼宮ハルヒが毎日のように、自分に告げた言葉がそれだった。
自転車のかごに乗せられ、住宅街や公園を過ぎ、緩やかな坂を駆け上って
風と共に流れてゆく街の景色を眺めるのが好きだった。
彼女と共に見る世界の全てが、幸福そのものであるかのように光り輝いていたのだ。

SSWiki : ss.vip2ch.com



2:名無しNIPPER[sage]
2015/01/03(土) 17:30:42.18 ID:PIY1OSqDO
ビビーン


3:名無しNIPPER[sage]
2015/01/03(土) 17:33:56.20 ID:B2tKWVCjo
期待


4:名無しNIPPER[saga]
2015/01/03(土) 17:36:35.94 ID:H42Us67f0
キョン「ジバニャン散歩にいくぞ」

それはあまりにも唐突な提案だった。

時計がちょうど天辺を指す間際。
以下略



5:名無しNIPPER[saga]
2015/01/03(土) 18:10:47.06 ID:H42Us67f0
キョン「ジバニャン?聞いてるか?」

ジバニャン「ニャッ!?あ、当たり前ニャン!」

二股になった尻尾の先までがビクリと跳ねる。
以下略



6:名無しNIPPER[saga]
2015/01/03(土) 18:16:20.68 ID:H42Us67f0
ジバニャン「い……いきなりどうしたニャン?せっかくオレっちが気持ちよーく昼寝しようと思ってたのに」

ウィスパー「まぁそうカタいこと仰らずに!ねっキョンくん」

キョン「そうそう、今日の散歩はいつもとは違うんだぞ」
以下略



7:名無しNIPPER[saga]
2015/01/03(土) 18:23:47.24 ID:H42Us67f0
散歩も何も、キョン自身は先ほど妹と二人で出掛けてきたばかりではなかっただろうか。
帰宅して五分と待たずに部屋へ飛び込んできたと思えば、急に散歩に行こうだなどと。
高校生にもなってまだまだ遊び足りないのかと呆れ半分
されるがままでいたジバニャンだったが
玄関の扉が開いた先の光景に、思わず言葉を失った。
以下略



8:名無しNIPPER[saga]
2015/01/03(土) 18:27:14.49 ID:H42Us67f0
機嫌が良かった理由はこれだったのだろう。
声を弾ませるキョンの言葉のとおり、そこに置かれていたのは銀色に光る新品の自転車だった。
ついこの間まで乗り回していたそれよりも一回り大きくて、ぴかぴかで、それから。

キョン「ほら、ちゃんと前カゴも付いてるんだ。ここに乗って散歩に行ったら気持ちいいぞ」


9:名無しNIPPER[saga]
2015/01/03(土) 18:32:25.96 ID:H42Us67f0
言いながら、キョンは自転車に取り付けられたそのカゴに触れる。
彼がまだ中学生だった頃に買ってもらっていた自転車には付いていなかったものだ。
それなのに、こんなにも懐かしいと思えるのは、きっと。

ウィスパー「どうです?行く気になりました?」
以下略



10:名無しNIPPER[saga]
2015/01/03(土) 18:43:10.71 ID:H42Us67f0
キョンの手が、そっとカゴの中に己の身体を下ろした。
ブレーキを蹴り上げる軽い音に振り返ると、にっこりと細められた瞳と視線が交わる。
行こう、と投げかけられたその声はひどく優しい色をしていた。


11:名無しNIPPER[saga]
2015/01/03(土) 18:47:54.58 ID:H42Us67f0
キョンという少年と出会ってから、もう4年になる。
交差点で独りきりだった自分に差し伸べられた小さな救いの手を忘れるには、まだ到底短すぎる時間だ。
それにあまりにも色々なことがあり過ぎて、ここまでがあっという間だったこともあるのだろう。

然し乍ら、己を乗せて走る自転車のペダルを漕ぐキョンは、その短い時の中でもずいぶんと変わったように思える。
以下略



12:名無しNIPPER[saga]
2015/01/03(土) 18:51:48.17 ID:H42Us67f0
キョン「どうだ?風が気持ちいいだろ」

ジバニャン「まぁまぁだニャン」

キョン「なぁにぃ!よぉーし、コレならどうだ!」
以下略



13:名無しNIPPER[saga]
2015/01/03(土) 18:55:10.79 ID:H42Us67f0
春の日差しに暖められた向かい風は何処からか拾ってきた花の香りを仄かに含んで、優しく撫でるように鼻をさする。
素直に心地好いと口にしてやれれば良かったのだけれど
生憎自分はへそ曲がりな性格であることを否めず
正直に伝えてやることなんて到底出来やしない。
けれどもキョンはきっと己の本音などとうに勘付いていて
以下略



14:名無しNIPPER[saga]
2015/01/03(土) 19:01:34.82 ID:H42Us67f0
キョンがふうふうと息を切らしながら必死にペダルを回しているおかげで
坂道でも自転車はペースを落とすことなくスムーズに進んでゆく。

ざわざわと風にさざめく木々の音の合間にあの少女、涼宮ハルヒの声が響いた気がして、無意識のうちに空を仰いでいた。
真っ白な綿雲がのん気に流れる空は青々と澄みわたり、まだ高いところに上っている太陽がほほ笑む。
以下略



15:名無しNIPPER[saga]
2015/01/03(土) 19:05:56.03 ID:H42Us67f0
出会いには別れがつきもので、恐らく己の方が先にこの世界を旅立つであろうことは知っていたつもりではあったけれど。
その別れはあまりにも突然で、あまりにも早すぎたのだ。

それがちょうどこんなふうに晴れた日の午後であったと思い起こし、はっと我に返る。
まさか今度はこの少年が、などという縁起でもない想像が頭を掠め、慌てて何度も首を横に振った。
以下略



16:名無しNIPPER[saga]
2015/01/03(土) 19:09:06.34 ID:H42Us67f0
キョン「ジバニャン、ほら」

背後の彼を一度振り返り、その視線に倣って同じように右の方へと目を遣れば、途端視界に飛び込んできたのは街一面を覆い尽くす淡いピンク色の波。
高い坂の上から見下ろす景色を彩っているのは、桜の花だった。

以下略



17:名無しNIPPER[saga]
2015/01/03(土) 19:13:47.45 ID:H42Us67f0
そんな鮮やかな色彩の海から目を離さぬまま、「綺麗だな」とキョンが笑う。
今度こそ両目から溢れ出しそうになった涙を何とか堪えて、己もずっと同じ方角を見つめていた。

キョン「来年も見に来ような」

以下略



18:名無しNIPPER[saga]
2015/01/03(土) 19:21:21.04 ID:H42Us67f0
ジバニャン「……キョン」

キョン「ん?」

少年の、あの頃よりも大きくなった手のひらが己の頭を撫でていた。
以下略



19:名無しNIPPER[saga]
2015/01/03(土) 19:25:23.63 ID:H42Us67f0
ジバニャン「ま、またこうやって散歩に連れてってくれてもいいニャン」

素直になれない自分の本当の気持ちを少し傲慢な態度の裏に隠して
それでも彼は笑ってくれるということを、己は知っている。
おそるおそる見上げれば、ほんの僅かな時間だけきょとんとしてこちらを見ていたキョン、一間置いてやはりいつものように笑った。
以下略



20:名無しNIPPER[saga]
2015/01/03(土) 19:32:48.47 ID:H42Us67f0
寧ろいつもよりよほど悪戯っぽい笑顔で、キョンは己が乗っている前かごの縁をぽんと叩いてみせる。

喉が詰まりそうなほどの喜びがこみ上げ、息を震わせた。
この少年もまた自分と同じ気持ちでいてくれているのだと思い知らされた気がして、己の心を埋め尽くすのはもう花びらのように降り積もる、桜色の幸福だけだった。

以下略



21:名無しNIPPER[saga]
2015/01/03(土) 19:42:07.50 ID:H42Us67f0
自分はまた独りぼっちになるのかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。
けれど先のことなんてまだ分からないのだから、今はただこの幸せを抱きしめていれば良い。
分かったのは、きっとそういうことだ。

ジバニャン「キョン、あのニャ」
以下略



24Res/11.08 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice