過去ログ - タイトルを書くと誰かがストーリーを書いてくれるスレ part2
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657:名無しNIPPER[saga]
2015/03/28(土) 15:55:57.60 ID:GFjDhtPAO
>>656続き


料金所の遮断機の前で車を止めた。

しわくちゃの老人の係員が「960円…」と料金を請求してこようとして、私が「ガイジン」だと気づいたらしい。

「えーっと、ないんはんどれっど、あんど…」

スパイという仕事がら、日本語はペラペラだし、そもそも、表示板を見れば金額くらいわかる。いちいち言い直してもらう必要はない。

だいいち、今は時間が惜しいのだ。

「ダイジョーブデスヨー、アリガートゴザイマース」

私は右手につまんだ千円札をひらひらと振った。正直、笑顔が引きつっていなかった自信はない。
老係員「おっけー、おっけー、千円おあずかりねー」

と、その時。

ふたたび、ヤツの気配を感じた。

(なん…だと…!?)

さっきよりもさらに強く、さらに冷たい戦慄。

(ぐっ…まさか、こんなところで…!?一般人に、一般人に見られたら、どうする気だ…!!)

硬直する私の様子には気づく様子もなく、老係員は私の指につままれた紙幣に手を伸ばし、

(…あ。)

…急に吹いてきた風によって、紙幣を取りこぼした。

ひらり、と風に舞い上がり、路上に落ちたかと思うとそこからさらに風に煽られ、かさかさと転がるように遠ざかっていく千円札。

「あー!!すんませーん!!ちょっと待っといてなー!!」

こちらの返事も待たずに料金所のボックスを出て、紙幣を拾いによたよたと駆けだしていく老係員。

当然、料金所の車止めの遮断機バーは降りたまま。


(NOォォォォォォォォ!!!)


私は心の中で絶叫した。

(ヤツが…来る!!追いつかれる!!!)


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「……ほい、40円のお釣り。どうもお待たせしてすんませんなあ。気ぃつけてなあ」

「Thank you.アリガートゴザイマース」

ペコペコと恐縮する老係員に笑顔で手を振り、私はアクセルを踏み込んだ。

もう焦りはない。
穏やかな気持ちだ。

そう、全ては終わったのだ。

早くここから離れてホテルに戻らねば。


熱いシャワーを浴びて。

レンタカー会社に詫びの電話を入れて。


それから、台無しになったズボンとパンツを洗うことにしよう。



そして――故国(くに)に帰ろう。


車内に充満している悪臭を追い出すべく、窓を全開にして車を走らせながら。


私は、少しだけ泣いた。

FIN.



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