123: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2015/03/21(土) 22:27:17.30 ID:YCokVBHJ0
気持ちの悪い音がしました。
排水口が詰まるヨウな、ゴボッ、という音です。
ブチュリ、という音もしました。
右目が孔から落ちる音です。
そいつは床にコロリと転がりまして、妾の左目と目が合いました。
124: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2015/03/21(土) 22:29:43.89 ID:YCokVBHJ0
温かい血が顎を伝わり、地面に流れます。
さじを引っこ抜き、左目を素足で踏みつけ潰しますと、あやかしの姿は綺麗に見えなくなりました。
もうチイちゃんの可愛らしい顔は見えません。
胸に清々しいものを感じました。
妾はようやっと、あやかしの地獄から開放されたのです。
125: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2015/03/21(土) 22:31:54.20 ID:YCokVBHJ0
6
そうです……こうして妾は、あやかしの地獄から開放された訳なのですから。
妾はモウ全く全然、可怪しな頭ナンゾ持ちあわせておらず、只の一人の女なのだという事を……。
……理解された事で御座いましょう……。
126: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2015/03/21(土) 22:33:18.29 ID:YCokVBHJ0
……ですから、先生。聞いて下さい。
妾はこのヨウな場所に居るべき女なのでは、決して無いのです。
127: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2015/03/21(土) 22:35:38.51 ID:YCokVBHJ0
たとい、自宅で不意にさじを握りまして、両目をえぐり取った女が居たとしても、それはキチガイと成ったからでは御座いません。
よしんばキチガイであったとしても、今の妾はトックの昔に、あやかしの地獄から命からがら逃げ出した訳でありますから。
妾はキチガイ等ではありません。
只の……一人の、女なのです。
128: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2015/03/21(土) 22:37:21.26 ID:YCokVBHJ0
こうして……窓に格子が嵌められた、牢獄のヨウな……精神病棟ナンゾに。
妾は閉じ込められる謂れナンゾ、全く全然無いのです。
あやかしの地獄から抜けだしたというのに……。
これではまだ、地獄のマンマでは無いですか……。
129: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2015/03/21(土) 22:39:08.60 ID:YCokVBHJ0
どうか……ドウカ、願わくば……。
妾の身の潔白が証明され、キチガイという烙印が消され、この地獄から開放されます事を……。
妾は永遠に、この地獄で願い続けます……。
……オホホホホホホホホホホホ……。
130: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2015/03/21(土) 22:40:10.36 ID:YCokVBHJ0
―――――――――――――――――――――――――
底本:「夢野久作全集20」ちくな文庫、筑磨書房
1992(平成4)年2月29日第1刷発行
2002(平成14)年9月31日第4刷発行
131: ◆eUwxvhsdPM[saga sage]
2015/03/21(土) 22:40:44.38 ID:YCokVBHJ0
終わりです。ありがとうございました。
132:名無しNIPPER[sage]
2015/03/21(土) 23:26:04.50 ID:uMsuXjtdO
乙、色々引き込まれた
しかし……日付といい発行といい
いったい何を底本にしたというんだ……
133:名無しNIPPER[sage]
2015/03/25(水) 19:26:10.05 ID:OofE8aXeo
おつおつ
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