78: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2015/02/07(土) 00:20:25.62 ID:EyJ2ILMk0
痛む頭をおさえおさえ、今の状況を把握しようとしました。
どうやってこんな、臭く汚らしい汚物だらけの場所に来たのか、全くわからないのです。
胸元に手をやりますと、身につけておりますブラウスがシットリと汗で濡れているのが確認出来ました。
ハハア、男の叫び声がアンマリにも恐ろしいものでしたから……気が動転した妾は、訳もわからぬマンマ走りに走って、コンナ場所にまで来てしまったのですね……。
79: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2015/02/07(土) 00:22:43.76 ID:EyJ2ILMk0
それにしても、汚らしい所です。
何だかわからない生き物の死体やら、吐瀉物ナンゾと混じって、乞食がそこかしこに座り込んでいます。
その誰もが、窪んだ瞳で女の妾を見つめているのです。
乳母(ばあや)から、都会に出ても、決して黄昏時から脇道へ入ってはいけないよ、と……口を酸っぱくして言われていた事を思い出しました。
80: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2015/02/07(土) 00:25:12.19 ID:EyJ2ILMk0
妾は頑として乞食と目を合わさぬようにしながら、足早に進みました。
元来た道を戻りまして、せめて先の繁華街まで戻れれば、と……思ったのですが。
サッパリ道を覚えていない妾には、ドダイ無理な話であったようでして。
クタクタになった足を投げ出し、荒い息を整えながら、額を流るる汗を拭いました時には、トックにお天道様は見えなくなりまして、青白い三日月がぎらぎらと光を放っておりました。
81: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2015/02/07(土) 00:28:02.09 ID:EyJ2ILMk0
提灯一つ無い路地は、日が沈みますと恐ろしいほど暗く、一寸先も見えないほどです。
衣擦れの音や、何かを踏みしめる音など、人の気配は感じるのですが、肝心の人の姿は見えません。
まるで、あやかしか何かが目蓋の裏を這っているかのようで……気分が悪くなりました。
早くこの場を離れなければ……気持ちは急くのですが、どうにもなりません。
せめて、せめて何かこの暗闇を進むための、標でもあれば……と思った時です。
82: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2015/02/07(土) 00:30:26.49 ID:EyJ2ILMk0
明かりは古い提灯から漏れ出ておりまして、どうやら誰かがそれを点けたようでした。
そして、その継ぎ接ぎだらけの提灯の元には……乞食爺が立っていたのです。
妾はギョッとしましたが、爺は妾の事ナンゾ、知らぬフリです。
歯の抜けた口を歪ませて、楽しそうに……明かりの元でアヤツリ人形を踊らせているのです。
83: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2015/02/07(土) 00:33:13.67 ID:EyJ2ILMk0
「……かこイつウけてエ――。あアいに――来たンやら。ソオレ、みンなみンなァ――。……ヘヘヘ、オてェ――にィ――……いれまするウ……やンややンや……」
「ヘ――イ。このタンビは私めの踊りのおセキにイ――。お立ちいただきイ……イタク感謝を……ヘッヘッヘ……嫁エ――をオ……狐にばやりましテ……チッチッチッチ……」
振り袖の人形が爺の外題に合わせて踊り狂うのですが、その見事な事……。
84: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2015/02/07(土) 00:35:45.62 ID:EyJ2ILMk0
思わず見入ってしまいますと、お爺さんも汗を拭き拭きシャ嗄れた声を絞りました。
話も佳境です。人形はまるで生きてるかのように、自在に踊りを見せました。
妾は固唾を呑んで見守っておりました。
すると、その時です。
85: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2015/02/07(土) 00:37:57.03 ID:EyJ2ILMk0
チットモ動かなくなったので、妾は心配になり、お爺さんに話しかけようとしました。
しかし……それは叶いませんでした。
お爺さんは、血走った目をイッパイに開いて、人形を見つめていたからです。
その形相の怖かった事……。
86: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2015/02/07(土) 00:40:10.53 ID:EyJ2ILMk0
妾は背筋に冷たいモノを感じ、爺から離れました。
暗闇に目を凝らして、またも訳もわからぬ道を探りさぐり進む事にしました。
爺がどうなったのかは、それっきり知りません。
上手に糸を繋ぎ直して、薄明かりの中踊り続けているのか……。
87: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2015/02/07(土) 00:41:47.97 ID:EyJ2ILMk0
いいえ、きっと……。
……死んでしまったのでしょうね。
……ホホホホホホホホ……。
88:名無しNIPPER[sage]
2015/02/10(火) 18:00:16.60 ID:nDqLrQzx0
乙
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