30: ◆/5u1xsuUH.[saga]
2015/01/08(木) 18:07:29.56 ID:QvrQLcExo
少し話が脱線してしまったが、この通り我ら妖狐にとっても50年というものは長いものである。
そんな長い間我らのために、正確には逃げ帰った父上のためにこんな遠くの神社に参拝してくれているのだから、
このおばあちゃんは本当にいい人である。
31: ◆/5u1xsuUH.[saga]
2015/01/08(木) 18:08:35.23 ID:QvrQLcExo
「お、噂をすればなんとやらだ。挨拶に行こうよ白面ちゃん」
「お、おい。編んでいる途中だというのに……まったく仕方ないな。片づけるからちょっとだけ待って」
32: ◆/5u1xsuUH.[saga]
2015/01/08(木) 18:09:45.43 ID:QvrQLcExo
ぶつくさいいながらもようやく彼女は片づけに行った。
本当は私だって好きなんだけど面と向かうと……
という感じの内容を小声でぶつぶつ言っていたのが聞こえたが、
33: ◆/5u1xsuUH.[saga]
2015/01/08(木) 18:10:24.82 ID:QvrQLcExo
「こんにちは、おばあちゃん。いつもありがとう」
「こんにちは、お元気にしていましたか?おばあちゃん」
34: ◆/5u1xsuUH.[saga]
2015/01/08(木) 18:11:22.44 ID:QvrQLcExo
いつも通り変な会話である。
僕らがおばあちゃんに狐とばれているのは父上のせいである。
父上が迂闊にも狐の姿で帰ってきた際におばあちゃんに追いかけられていたとも知らずに、
35: ◆/5u1xsuUH.[saga]
2015/01/08(木) 18:15:00.96 ID:QvrQLcExo
それから僕らはおばあちゃんと仲良くするようになったのだ。
もっとも当時は『おばあちゃん』ではなく『お嬢ちゃん』と呼んでいた。
そして時を経るごとに『お嬢ちゃん』から『お姉さん』へ、
36: ◆/5u1xsuUH.[saga]
2015/01/08(木) 18:15:36.64 ID:QvrQLcExo
「あら、もうこんな時間。今日もいっぱいお話できて良かったわ。私は帰らせてもらうわね」
「そうだね。途中まで僕らが送るよ」
37: ◆/5u1xsuUH.[saga]
2015/01/08(木) 18:16:07.86 ID:QvrQLcExo
これもいつも通りである。
ただ単に別れが名残惜しいだけなのではあるが、いい口実になるのだからよいのだ。
38: ◆/5u1xsuUH.[saga]
2015/01/08(木) 18:16:43.44 ID:QvrQLcExo
つまり何が言いたいかというと、おばあちゃんは間違いなく僕らより先に亡くなってしまう。
しかし妖狐というのはそういうものなのだ。
そして人間というのはそういうものなのだ。
39: ◆/5u1xsuUH.[saga]
2015/01/08(木) 18:17:09.71 ID:QvrQLcExo
200年ほどしか生きていない僕でもそれなりの人を見送ってきた。
そしてこれからも見送るのだろう。
それでよいのだ。
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