過去ログ - ペンション・ソルリマールの日報
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37: ◆EhtsT9zeko[saga]
2015/03/09(月) 02:08:19.90 ID:ldjAGy3+o

 心の中で、アヤのあの明るい笑顔を浮かべて、それにすがりつくように私はPDAの画面に触れる決心をした。

 そんなときだった。

 ガチャン、と音がして、ホールに誰かが入ってきた。ハッとして顔を上げるとそこには、カレンと、見たことのない男女がいた。

「レナ、ただいま」

明るい声で言ったカレンは、私とソフィア、それからソファーに倒れ込んでいるテオを見て、瞬時に表情を険しく変えた。

 「なにかあったの…?」

カレンが小走りで私たちのところにやってきて、テオの様子を伺った。

「レナ、彼は?」

テオを見るなり、カレンは私を見つめて言ってきた。私は、言葉に詰まった。アヤに頼っていいのか、と巡った思考が戻ってくる。

カレンは、アヤなんかよりももっと頼れない。

だって…カレンの家族は…

「レナさんの元部隊員だそうです」

言葉を継げなかった私に代わって、ソフィアが言った。カレンはその言葉だけで、事態を把握したようだった。

「医療証がないんだね?」

カレンが私の顔を覗き込むようにして聞いてくる。そんなカレンに、私は頷いて返すことしかできなかった。

 カレンは私の反応を見るなり振り返って言った。

「カルロス!手を貸して!」

その言葉を聞いた男の人の方が険しい表情で頷く。

「レナ、車は?」

今度はカレンは私に視線を戻して言ってきた。

「ア、アヤが乗って行っちゃって…」

「ならタクシーだね…レナ、頼める?」

カレンはそう言いながら私の肩を力強く掴む。私は…また、黙って頷くことしかできなかった。でも、そんな私にカレンは優しく笑って言ってくれた。

「しっかりしなよ。大丈夫、任せておきなって。カルロス、そっち側、頼む」

私の返事を待たずに、カレンはカルロスと呼ばれた浅黒い肌をしたラテン系の男とソファーに倒れていたテオを肩に担いだ。

「レナ、電話頼むね」

カレンが振り向きざまに私にそう言ってきて、ハッとして、PDAでいつもお客さんが使いたいっていうときに頼んでいるタクシー会社に電話を掛けた。

その間に、テオを担いだ二人は、もうひとり残された女性が先導してホールの外に出て行っていた。

 電話を終えた私もそのあとを追う。そのときにはカレン達はすでにペンション玄関を出ていた。

「カレン、私…!」

私はカレンに声を掛けた。何かを言わなければ…そんな思いで胸がいっぱいだったけど、声を掛けただけで何も言葉が継げなかった。

でも、そんな私にカレンはまた、優しい笑顔を見せてくれた。

「レナ、アヤが戻ったら知らせて」

そんなカレンの顔は、やっぱりアヤのあの顔にどこか似ていた。

 程なくしてやってきたタクシーに乗って、カレン達はペンションから市街地の病院へと向かっていった。

私は走り去っていくそのタクシーをただただじっと見つめていた。



 


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