21: ◆8HmEy52dzA[saga]
2015/01/16(金) 20:49:24.80 ID:6UJ3zAla0
渋谷はシンデレラプロダクション所属のアイドルであると同時に、僕が一番初めに担当した記念すべきアイドルでもある。
事務所内で一番付き合いが長いのは、何を隠そう渋谷だ。
「何やってるの、こんな所で」
「ああ、橘が何かくれるらしくてな、待っててと言われた」
意外そうな表情を浮かべる渋谷。
とは言え、あまり表情の変化の幅が狭い渋谷なので、わかるようになるには少々時間がかかるが。
「へえ……ここに来たばかりの頃は、すごく刺々しかったのにね」
「いや……渋谷も相当だったぞ……」
「そうだっけ」
「僕にどんな対応をしたか、忘れたとは言わせないぞ」
「…………」
渋谷と橘は、出会ったばかりの頃の印象が似通っている、という共通点がある。
二人とも初対面ではものすごく冷たかったのだ。
特に渋谷は……いや、今となっては何も言うまい。
「あの頃に比べりゃ渋谷もだいぶ丸くなったよ」
「……やめてよ、昔話なんて。年寄りくさい」
渋谷はそのまま事務所内へと行ってしまった。
どうやら怒らせてしまったらしい。
まあ、僕にとっても渋谷にとってもいい思い出じゃあなかったのかも知れないが。
「お待たせしました」
と、そんな事をしている間に橘が戻って来た。見たところ、手には何も持っていない。
「なんだ、僕と結婚してくれるのか?」
「不可能です」
「『嫌です』じゃなくて不可能なの!?」
「こちらへどうぞ」
僕の突っ込みもさらりと流す辺り、末恐ろしいにも程がある橘だった。
橘に導かれるままにアイドルたちの休憩室へと向かう。
中にはまだ早いからか、誰もいなかった。
渋谷はきっと男子禁制の更衣室で着替えているのだろう。
後で何とかして渋谷の機嫌を取ろう、と思いまずは橘の『お礼』に心を弾ませる。
休憩室の中心、いつも皆がお茶を飲むのに使っている大きめの机にあったのは――。
「こ、これは……!」
「今回は原点回帰を主題としました。何事も初心に返って思い返すことは大事だ、とプロデューサーに教わりましたので」
いや、確かに言ったよ。
言いましたよ。
だからってそれとこれとは話が違うんじゃありませんか橘さん!?
嫌な汗が汗腺から噴き出す。
呼吸がままならない。
思わず固唾を飲んでしまった。
まるで今から親友か家族の仇と対峙するような、おぞましい程の緊張感が全身を襲う。
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