23: ◆8HmEy52dzA[saga]
2015/01/16(金) 20:53:42.78 ID:6UJ3zAla0
「…………」
「プロデューサー……どうですか?」
茹でられた温かいパスタ、その熱を移した生温かい生クリーム、冷たいチョコアイスが温度差のハーモニーを奏でる。
口内では主食である筈のパスタ(ちなみに僕は家でよくパスタを作って食べる。安くて楽だから。)が、未だかつて体験したことのない未知の食物として認識されていた。
果実独特の酸味に加え、それを包み込み覆う生クリームの甘味。
苺と相性抜群の筈のチョコレートアイスは、僕の味覚と嗅覚を更なる混沌へと導こうとしている。
橘が横で心配そうに見ている。
みっともない真似だけは出来ない。
咀嚼を続ける。
そういうコンセプトなのか、柔らかめに茹でられたパスタは噛んでいる、という食感すら与えない。
はっきり言おう。
決して不味くはない。
不味くはないのだが、あまりにも斬新なあらゆる要素が、総出で僕の脳髄に問いかけて来る。
味覚が、触覚が、嗅覚が、視覚が、これを『食事』として中々認識してくれないのだ。
個人的には好き嫌いはない方だと思うのだが、これは好き嫌いの範疇を遥かに超えている。
評価以前に評価すらさせてくれない――それが、正直な僕の感想だった。
……いや、これを主食として捉えるからおかしなことになるのだ。
あくまでスイーツだ。
なに、パスタは主食としてではなく、サラダや前菜にも使われているじゃないか。
「なに黙っとるんじゃ、男ならはっきりせぇよ」
村上に小突かれる。
ああ、わかってるさ。
僕が言うべき言葉なんて一つに決まってる。
「……う……うまいぜ」
「本当ですか!?」
「ああ……斬新すぎて思わず戸惑ってしまったが……こういうのも、悪くない」
どこぞの殺人鬼音楽家のように、遠くを見ながら決めてみせる。
僕だって子供じゃない。
橘が僕に、と作ってくれた料理を一蹴できる程に僕は堕ちちゃいない。
ただ、正体不明の身体の震えを止めるので精一杯なことを、皆さんにお伝えしたい。
「おかわりありますから、どんどん食べてくださいね」
ああ、橘スマイル、ゴールデンプライス。
そんな笑顔をされたならば、食べない訳には行かないじゃないか。
「た、橘……」
「あ、忘れてました。プロデューサー……ひとつだけ、提案が」
「……なんだ」
なんとか首をもたげ、橘を見る。
そのエプロンを身に着け微笑む姿は、皮肉ではないが、花のよう、と表現するのがとても似合っていて。
「名前で、呼んでもいいですよ」
阿良々木暦「ありすリコリス」END
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