1:名無しNIPPER[saga]
2015/02/22(日) 23:02:43.09 ID:v526sWaco
夕暮れ。公園。ブランコ。
ジャングルジムの影の網目。ベンチに置き去りのランドセル。赤と黒。
水飲み場のそば。濡れた土。砂場に埋まるジュース瓶の王冠。
敷地を示すフェンスの内側。道路側からは覗けない、滑り台の影。
「ねえ……」
ぼくらは。
「キス、しよ?」
ぼくらは。
誰かを好きになるなんてこと、言葉の上ですらよくわからなかったぼくらは。
ただお互い、すぐに近くにいたというだけの関係で。
他の誰よりも近かったという、ただそれだけの理由で。
その気持ちが、他の誰かに対して抱くものと、どう違うのかさえ分からないままに。
それでも真実だと信じて。
好奇心や興味じゃない、ましてや欲望なんかじゃない。
そんなまがいものの感情なんかじゃないと、信じて。
ぼくらは。
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2:名無しNIPPER[saga]
2015/02/22(日) 23:03:12.57 ID:v526sWaco
「好きだよ」
キスをした。
誰にも見つからないように。
3:名無しNIPPER[saga]
2015/02/22(日) 23:03:39.46 ID:v526sWaco
◇
金曜の夜には、計画を立てる。
4:名無しNIPPER[saga]
2015/02/22(日) 23:04:23.60 ID:v526sWaco
で、結果……俺は土曜の午前三時までファンタジー世界の傭兵としてお姫様の護衛をしていた。
さすがにそろそろ寝ないとまずい。いまさらそんな自制心(というより、眠気の方が勝っていたが)に突き動かされる。
まあ、目覚ましをセットしてりゃ起きられるだろ。そう思って、さらっとシャワーだけ浴びて、寝た。
5:名無しNIPPER[saga]
2015/02/22(日) 23:04:50.24 ID:v526sWaco
ベッドの上で目を閉じて休んでいるうちに、またうたた寝したらしくて、起きたのは夜中の十一時過ぎ。
空腹に突き動かされて台所に向かい、冷蔵庫の中をあさったが何もない。
ああ、なんだよ、と俺は思う。
6:名無しNIPPER[saga]
2015/02/22(日) 23:05:17.37 ID:v526sWaco
次に目を覚ましたのは、眠りすぎたせいだろうか、朝の四時を回ったくらいのことだった。
起きてすぐ、憂鬱になる。
二度とやらないゲームのために潰してしまった土曜日。
7:名無しNIPPER[saga]
2015/02/22(日) 23:05:43.50 ID:v526sWaco
◆
「お兄ちゃん、起きてる?」
8:名無しNIPPER[saga]
2015/02/22(日) 23:06:13.40 ID:v526sWaco
◇
「……おにいちゃんってば!」
9:名無しNIPPER[saga]
2015/02/22(日) 23:06:40.25 ID:v526sWaco
「夜更かししたの?」
「いや。早寝したよ」
10:名無しNIPPER[saga]
2015/02/22(日) 23:07:06.43 ID:v526sWaco
「うそだあ」
「なんだよ、嘘だあって」
11:名無しNIPPER[saga]
2015/02/22(日) 23:07:38.48 ID:v526sWaco
「でも、ほら、前から言ってたでしょ、観たい映画があるから始まったら付き合ってねって」
「ひとりで行けば?」
12:名無しNIPPER[saga]
2015/02/22(日) 23:08:04.83 ID:v526sWaco
そもそも、母親同士の仲が良すぎたのが問題なんだ、と思う。
隣近所に住んでいて、やたらと気が合うからって理由で、俺たちの母親同士は姉妹みたいに仲が良かった。
同じような時期に子供を生んでいたのも理由のひとつなんだろう。
13:名無しNIPPER[saga]
2015/02/22(日) 23:08:31.00 ID:v526sWaco
「……俺じゃなくて、友達と見に行ったらいいのに」
「だって、映画の趣味、合わないし」
14:名無しNIPPER[saga]
2015/02/22(日) 23:09:00.21 ID:v526sWaco
◇
ここ数日はずっとどんよりした曇り空で、外に出るにも憂鬱だったが、今日はそこそこ爽やかな晴れ空だ。
15:名無しNIPPER[saga]
2015/02/22(日) 23:09:29.94 ID:v526sWaco
「こんな良い天気の日に出掛けないなんて……」
「……出掛けないなんて?」
16:名無しNIPPER[saga]
2015/02/22(日) 23:09:56.22 ID:v526sWaco
一応、近所に住んでる顔見知りばかりだから、声を掛けられたり、挨拶をしたり……。
って言っても、たいがいが志鶴に対してのもので、俺はおまけみたいな扱いだけど。
人徳ってやつだろう。俺には真似できない。
17:名無しNIPPER[saga]
2015/02/22(日) 23:10:22.77 ID:v526sWaco
「……珍しいか?」
「どうしよう、せっかく映画見に行くのに……」
18:名無しNIPPER[saga]
2015/02/22(日) 23:10:50.15 ID:v526sWaco
「や、でも、おにいちゃんがわたしのこと褒めるなんて、半世紀に一回くらいだよね」
凍った空気を忘れさせようとするみたいに、志鶴は言葉を重ねる。
俺もそれに乗っかることにした。
19:名無しNIPPER[saga]
2015/02/22(日) 23:11:16.79 ID:v526sWaco
「ところで、おにいちゃんさ」
「なに?」
20:名無しNIPPER[saga]
2015/02/22(日) 23:11:44.46 ID:v526sWaco
「……で、なに、その質問」
「こないだ、おにいちゃんが女の人とふたりで歩いてるところ見かけたから」
21:名無しNIPPER[saga]
2015/02/22(日) 23:12:15.40 ID:v526sWaco
「ふーん。なんだ、つまんない」
「一緒に歩いてるだけで付き合ってることになるなら、今だってそうなっちゃうだろ」
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