過去ログ - 「彼女は景色を食事とすることが出来た」
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名無しNIPPER
2015/02/25(水) 01:31:02.46 ID:Nu+X4rGi0
「……綺麗だな」
彼女の口から景色の感想を聞くのは初めてだった。
景色を見るときはいつも黙っていたから。
しばらく見とれていると、彼女が横から包みを差し出してきた。
「お弁当食べる?」
「……ああ」
彼女とまた喋れたことが嬉しくて、彼女が綺麗だと言ってくれたことが嬉しくて、俺は思い切りおにぎりを頬張った。
「美味しい。ありがとう」
そう言うと彼女は俺の手をぐいと引き寄せて、おにぎりにかぶりついた。
驚いて呆けている間に、口元に付いた飯粒まで食べてしまった。
もぐもぐと口を動かしながら彼女は笑う。
「えへへ、美味しいね」
味はきっと分からないままだろう。
でも彼女がおにぎりを美味しいと感じたのは、俺がこの景色の美味を味わっているのと同じだろうと思った。
嬉しくなって、言った。
「景色がうまい」
「おにぎりが美味しいよ」
「両方美味いな」
「そうだね」
二人でずっと美味しいね、綺麗だね、と言いながら日が沈むのを見た。
行きに話したかった分を取り返しながら、山を下りる。
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