21: ◆8HmEy52dzA[saga]
2015/02/25(水) 21:07:37.66 ID:DLa1I0Qh0
「わたしは、悪意が、怖い……」
両腕を交差させ抱き、身体を縮こませる。
寒い。思わずしゃがみ込んだ。
二進数で構成されるこの世界に温度なんて上等なものはないけれど、凍えてしまいそうだ。
世の中は綺麗事ばかりじゃない。
この呼吸が定まらなくなる程の悪寒と鬼胎は、以前にも感じたことがある。
アイドルを始めた頃にあった違和感。
あの時は何とか折り合いをつけたけれど、今でも常に晒され続けていることには違いない。
わたしがアイドルとして成功すればする程に蓄積するそれは、形も悪意もない暴力となってこの身を削る。
怨恨、遺恨、嫉妬、怨嗟。
殊更、アイドルにおいてはその濃度も一般のそれとは異なる色と密度でのし掛かる。
わたしも負けたことがあるからわかる。
相手が友達だからと言って、気の良い人物だからと言って、負けて悔しくない訳がない。
本人に悪意が微塵もなくとも、微量の無意識的な負の感情は発生する。
それも堆く積み重なれば、醜いオブジェとしてわたしの中に残る。
動画の辛辣コメントよりも、荒らしを目的とした輩よりも、わたしはそれが怖くて仕方がない。
この世で最も恐ろしいのは、悪意のない負の産物。
天災や、先述した別れもそれにあたる。
誰の手にもどうにも出来なくて、その上悲しみしか産み出さない。
そんなものがあると考えた時点で、あまりの重さに押し潰されそうになる。
「ここでは全てが私の思い通りになる。誰も私を傷付けない。誰も私を責めはしない……!」
わたしはただ、波風の立たない日常が欲しいだけ。
わたしがいなくても、世界は廻る。
水谷絵理という部品が欠けていようが、わたし抜きでも世界は機能する。
だったら、もうそっとしておいて欲しいだけなのに。
「……落籍しかみなは擬似的な永遠を作るけれど、それも決して完全な永遠じゃあない。この世に劣化しないものなんてないからな、繰り返すことで必ず何処かに綻びは現れる。ここに居続ける限り、いつかは記録も水谷自身も電子の海に溶け、単なる『情報』になって永遠に戻って来れなくなるぞ」
それなら、それでもいい。
ネットアイドルも、リアルアイドルも体験したわたしには、顔のない、名前だけの存在になることには慣れている。
今ここでわたしがいなくなろうとも、わたしがいた形跡は電子の海に残っている。
いずれ風化して忘れ去られるだろうけれど、情報だけは別だ。
どんな形だろうと、消えることは絶対にない。
それはわたしにとって、原初の海に溶けることと、そう変わりはしない。
むしろ、理想の死に方かも知れない。
そんな事を考え始めているわたしは、もう手遅れなのかも知れなかった。
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