過去ログ - 咲「誰よりも強く。それが、私が麻雀をする理由だよ」
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747: ◆FKdwDGPVI6[saga]
2015/11/06(金) 20:59:50.65 ID:rfIZ9CGPo
誠子「くっ、店内だから派手な動きができない……」

淡「ツーン」

誠子「ツーンとしたいのはこっちだ! ……宮永さん、そいつ捕まえてくれないかな」

 あっという間に後ろに回られた。心底申し訳なさそうにトーンを落とす誠子の頼みに咲は首をねじって後方をうかがう。

 どうしてか淡は咲の髪に顔を埋めていた。

淡「んーっ、やっぱテルーにそっくり。髪型も髪の長さもホーンみたいなクセも」

咲「……あの、どいてください」

 無遠慮に接近されて微かに不快な感覚を覚えながら伝えると、淡は名残惜しそうに咲の頭から顔を離した。淡へと突き刺さる明華の視線は心なしか険しい。

淡「ごめんごめん、つい」

咲「いえ……それより試合に戻ったほうがいいと思いますよ」

 こんなところで油を売っている場合ではない。そんなことは部外者の咲に言われるまでもなくわかっているはず。とはいえ、約束を取りつけようと粘り続けて一向に帰ろうとしない淡を見ていると、何を考えているのかわからずにもやもやとした疑問が募っていく。

 咲は、淡と積極的に拘わろうとする気はなかった。淡との関係を通じて姉との関係が進展する可能性を考えなかったわけじゃない。だが、そういった理由で淡と関係を結ぶことに打算の後ろめたさを感じる以前に、咲はその選択肢を拒絶していた。善悪の判断と感情を抜きに、それは咲にとって最も忌避すべきことだった。

淡「んー、試合は大事だけどこっちも気になるんだよね」

 淡はどこまでも奔放に振舞っている。そんな悠長にしている間に試合の出番が回ってくる事態にもなりかねないのに。大丈夫だという確信でもあるかのように余裕を見せる。本当にコンビニに買い物でもしにきたような気楽さだ。

 ふと気になったのは誠子と淡の力関係。淡は最初正座して謝っていたのに今では誠子に対して居丈高だ。この二人、どういった関係なのだろうか。

 おもむろに誠子へと視線を送る。すると切実そうな瞳で見つめ返された。「淡を捕まえてくれ」目がそう言っている。

 咲もそろそろ買い出しを再開したい。むしろ手伝わない理由がなかった。誠子に協力し淡を捕まえようとすると、

淡「わっ、わわっ、何?」

 嫌な予感を察したのかするりと咲の腕をかわして距離をとられてしまう。

淡「あ、あれっ、プールの準備を気にしてる? だったら大丈夫、これ持ってきたから心配ないよ!」

 しかし一度の失敗に諦めず近づいていく咲に、淡は焦った様子で陽気にそう言って手にすっぽりと収まるくらいの小ぶりなビンを取り出す。

咲「えっと、それは?」

 錠剤の入った透明なものだ。プールの準備なんて見当はずれなことを言われたものの、気になって問いかける。

淡「ふっふーん、飲む日焼け止めだよ。すごいでしょ」

咲「え、それが……」

 飲んで対策するタイプの日焼け止め。モデルやヨーロッパなどの間で大流行し、シワやシミなどにも美容効果が期待できる垂涎の品だ。咲も寡聞には聞いていたが高価なこともあり、実物を見るのは初めてだった。

誠子「み、宮永さん惑わされるな! そもそも水着がないぞ!」

淡「水着は私の貸したげるもーん」

 興味を示した咲に危惧を抱いてか必死に呼びかける誠子と、余裕の表情の淡。だが実際のところ咲はある矛盾に震えていた。

咲「結構です……」

淡「え、何が?」

 咲の発言に淡が聞き返す。なるほど、藪から棒に言っても伝わらないだろう。深い谷底から這いあがる怨嗟のように陰鬱な声でニュアンスが伝わるという期待に見切りをつけ、咲は水着はいらないと伝える。「なんで?」淡が不思議そうな顔をした。咲は、屈辱に身を震わせる。

咲「入りませんから」

 咲が、淡の水着を着るには、身体のある一部分の厚みが足りない。おそらく、その水着を着ると余った布地を支える『力』が不足し、水着は重力に従って咲の胸を離れるだろう。――経験上、咲はそれをよく知っていた。

淡「なんで?」

咲「胸が、足りないからです!」

 なおもいたずらに長引かせられる残酷な話題に、咲は終止符を打った。

誠子「大星……お前、そんなことをするやつだとは思わなかったよ」

 咲の痛みを理解し境遇を同じくする誠子が非難する。人の道を外れた行いに失望をあらわにし、畜生道に落ちた罪人を見るようなまなざしで淡を見やる。明華も何か言いたそうにしているが、持てるものが心に届く言葉を口にする困難を悟ってかいたたまれなさそうに傍観。咏は遠巻きにずっと観察していて、こっそり爆笑していた。

淡「あー……な、なるほどね」

淡「もんで大きくしてあげよっか!」

咲「そんな幻想はいらないので帰ってください」

 めげずにコミュニケーションを図る淡に凍えるようなまなざしで返答が返される。にべもなかった。


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