過去ログ - 咲「誰よりも強く。それが、私が麻雀をする理由だよ」
1- 20
847: ◆JzBFpWM762[saga]
2015/12/08(火) 14:01:51.17 ID:36P3Vv2Ko
「ネリーちゃん、これ誰にあてた手紙なの?」

身をこごめ、机にかじりつくように意識を集中させていたネリーは「うん?」と顔をあげ、左上に視線をすべらせると、宙にただよわせたそれを引き戻してきて咲の顔に合わせた。

とくに意識していないと人の眼は、左脳を働かせるときは左上に、右脳を働かせるときは右上に、黒目の部分が寄って視線が流れがちである。右利きの人は九九パーセント、左利きの人は約三分の二が左脳に言語野を持つといわれる。

そして、咲はとくに気にしなかったが、流れたネリーの視線は左上を向いていた。

「……お母さんかな。どうかした?」

「……お母さん?」

母親があて先にしては、と咲は思った。いや、頭語と結語が前略と草々なのはまだいい。ただ、いわば三大要素となる時候の挨拶、相手の近況や安否を尋ねる、自分の近況や安否をしらせる、というもので考えたとき、ネリーの手紙はというとちょっと平淡だ。自分の近況は一応書いてあるのだが、きわめて短く、簡素に綴られている。『とくに将来を不安視させるようなこともなく安泰だ』程度の、修飾や装飾のへったくれもない文章だ。

頻繁に手紙を交わして伝えることがなかったり、意外と近くに母親が滞在していたりするのかなと咲は思った。

頭語と結語は、そもそも女性のプライベートな手紙なら省くか柔らかい表現を代わりに使ってもおかしくないらしいから、頭語と結語は日本の感覚でいえばおかしいものではないのだろうし、ネリーの手紙はフランクともとれる。ただ外国の感覚でいったらどうなのだろう。咲は迷う。

手紙について何か言っていいのだろうか。外国の人との付き合いは、生まれてこの方ほとんどない。親族の人くらいだろうか。あの人たちは比較的国際色豊かだった気がする。外国の、伝統ある血筋や隆盛を誇る家からも血を採り入れて、一族の繁栄に努めるのがあの人たちの願いらしい。幼い頃、九歳のとき以来、疎遠になっているので今はどうか自信がないが、どっちにしても幼いときは勿論、今でも咲などに分かるのはごく限られた事だった。

それはともかく。親族との付き合いも浅く、親族に限らず他者とごく限られた交流しか持ってこなかった咲は、現在に至っても異国の人間には慣れていない。だから、作法に関して口を出していいものか判断がつかない。


<<前のレス[*]次のレス[#]>>
1002Res/901.97 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice