過去ログ - 咲「誰よりも強く。それが、私が麻雀をする理由だよ」
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872: ◆JzBFpWM762[saga]
2015/12/15(火) 23:35:14.06 ID:Y8k0m8hzo


昼食どきの校舎内はそこかしこで混雑していた。といっても、足の踏み場もないというほどのところは購買や食堂の食券売り場くらいで、今咲がいるような部活棟へとつながる廊下などは比較的空いていて歩きやすかった。

リノリウムの床。足音を鳴らして歩いていく。遠くから聞こえてくるさざめきのような喧騒。
歩調は遅くもなく早くもなく。廊下の両端を教室の扉と窓とが規則的に立ち並び、窓の外には中庭の光景が広がる校舎の一角を、平常な心境で咲は歩いていく。

部室までもうすぐだ。人気がぱったりと途切れている様子に軽い幸運を感じながら最後の角を曲がる。

「おう」

「ひゃっ……」

曲がった瞬間、誰かの顔が至近距離に映し出されて咲の口から悲鳴が漏れかける。

「っ……辻垣内、さん」

突如として目の前にあらわれたのは辻垣内智葉、咲が越えるべき相手だった。

彼女は、立ちはだかるようにして今も咲と向かい合わせになっている。距離が近い。どちらかの身体が少しでも動けば相手の身体に触れそうなほどだ。

心臓に悪い登場をされて、また過剰に近い距離にいる誰かの存在に内心びくびくとしながら、咲は侮られないために虚勢を張る。まなこを鋭くして声や表情もなるべく毅然と。実際はた目にもそう見えた。

「ああ、驚かせたか。悪いな急いでたんだ」

「……いえ。ちょっと驚いただけですから」

先ほどの明華ではないが奇遇だと咲は思っていた。

「……あの、いかないんですか?」

ただ、急いでいるという割に智葉がその場から動こうとしないことには疑問を感じる。智葉を前にするのは苦手だ。いくなら早くいってほしい、と考えながら咲が言葉を投げかけると、

「おいおい、突っ込めよ。明らかにおかしかっただろ今の」

「はい……?」

意図の読み取れない指摘で返されて困惑する。

「いや、あのな」

「……?」

「……まあ、なんだ。驚かせようと思ってな。待ち受けてたわけだ」

先ほどの言い分とは真っ向から食い違う話を智葉が始める。その顔は渾身の一発芸が滑って苦虫を噛み潰すかのような感じだ。

確かに咲はいつもこのくらいの時間に部室を訪れてここを通りがかる。毎回この角を曲がると決まっている。わずか一〇日ばかりの中で繰り返されたことだが、智葉はそこから察したのだろう。


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