過去ログ - 咲「誰よりも強く。それが、私が麻雀をする理由だよ」
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◆JzBFpWM762
[saga]
2015/12/15(火) 23:36:26.02 ID:Y8k0m8hzo
「そう……なんですか? じゃあさっきの話は嘘ということですか」
「まあ、そうなる」
「そうでしたか」
咲は普通に返した。不自然に平坦な声になるではなく、表情や仕草で不満を訴えるわけでもなく。知っている人に朝おはよう、と言われて、おはようと返すような自然なやりとり。平然としている。
「ううむ……」
想像していた、もしくは期待していた反応とは違ったのか、智葉は唸る。どうしたものかと思い悩むようでもあった。
目の前の人との距離が近いな、と感じたのか咲は一歩下がる。そうするとほっとしたような顔になる。
「お前……最初の数日と今とでキャラ違わなくないか?」
ところが無情にも智葉はさらに一歩を踏み出してまた距離を詰める。やむを得ない。咲はもう一歩下がる。智葉が一歩詰めた。さらに一歩下がる咲。すかさず智葉が一歩踏み出す。咲はそれ以上下がらなかった。あきらめたのだろう。
「……キャラ、ですか?」
わずかに目を泳がせてから咲が返す。
それに智葉が「ああ」と肯いて。いぶかしむ、というよりは腑に落ちないといった感じで続ける。
「初日なんかはもっと食いかかってきてただろ。それがここ一週間ほど……いや、最初の数日だけ、か。あのときのやる気にあふれたお前はどこにいったんだよ」
智葉の言葉を受ける咲の顔には色濃い困惑が浮かんでいた。しかし、どこか理解の色があるようにも見える。
「あれは……ちょっと先走ってやりすぎただけです。まだ先は長いと思って力を抜いた。そういう感じで」
「なんかあやふやな言い方だな……じゃあまた、都予選なり近づいてきたらああなるってことか?」
「それは……」
言い淀む咲。その歯切れの悪そうな口ぶりは、どちらかといえば問いに対して否定のニュアンスを接するものに感じさせた。
「ふう……まあいい。私とレギュラー争いする気はあるんだな?」
少しばかり疲労した感のあるため息を漏らしてから、智葉は凛然と表情をひきしめ、それだけは聞かせてもらう、といった調子で強気に尋ねる。
真意を問いただすように正面から目を見つめてくる智葉に対し、目をそらして少しの間押し黙る咲の姿は口を噤む可能性を想像させたが、やがてゆっくりと、見ようによってはおそるおそる智葉と目を合わせると、
「それは……あります。私は先鋒になりたい。そのために臨海にきました」
その言葉を口にする。そのときだけは、赤みがかった鳶色の瞳に強い意思がこめられるかのような力を智葉に感じさせた。そこに帯びる一種の悲愴さは、聖職者が一心に祈りを捧げる姿をも想起させる。
無意識に解き放れたのだろう、麻雀の才気とも呼べる威圧的な力が空気を軋ませるかのような感覚を呼び起こす。その力はともかく、強靭な意思を感じさせる瞳と、その瞳の、色こそ違えど雲の上に広がる清浄な大気にも似た色合い、その二つは智葉の眼鏡にかなうものだった。
ただ、どう見繕ってもそこに敵意と呼べるほどのものは存在しない。その事実が、智葉の顔を曇らせる。
「ならいいんだ。私からみれば気迫が足りてないが、まあ相手をしてやる気にはなれそうだ」
だが智葉はすぐに表情を凛としたものに戻して、全身から立ち昇っている戦意すら声に滲ませて告げる。
「……はい。お手柔らかに、全力でお願いします」
「ふっ、お手柔らかに全力ってなんだそれ」
咲の言葉に鼻で笑って、智葉は固い表情を崩す。それでも真顔といって差し支えないものだったが、少なくとも臨戦態勢ではなくなっている。
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