過去ログ - 咲「誰よりも強く。それが、私が麻雀をする理由だよ」
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876: ◆JzBFpWM762[saga]
2015/12/15(火) 23:40:25.73 ID:Y8k0m8hzo
「あ、ところで話は変わるんだけど」

会話の熱も冷めて椅子に座り直したネリーから、ふと話しかけられる。

「きのう頼んだ手紙、あるじゃない?」

「あ……うん、あったね」

「きのう勝手に帰っちゃってなんなんだけど、もうほんのちょっとで完成するから……あとで、手伝ってもらっていい?」

はきはきとした物言いの多いネリーにしては消極的な頼み方。昨晩の急な帰宅、ネリーはネリーで気にしているのだろうか。

こちらを見上げてくる青みがかった瞳は、つい昨晩の確信が宿っているように感じられた言葉とは対照的に、少し自信なさげに陰っている。

「もちろん。お昼ごはんもう食べ終わるからまずそれからやろうか」

「ほんと!? 昼休憩でできると思うしほんと助かるよー」

とくに、断るような理由はない。ましてや昨晩のことで気分を害したわけでもない。なら咲の返答は決まっている。

お世話になっている人の役に立てるのはうれしいことだ。もっと、何かしてあげたいと思う。

「じゃあ早くお弁当片づけないと……もぐもぐ」

「あっ、そんな急いできなこモチ食べたら……」

「――うっ!? ごふっ、げほ、ごっほ、げっほ!」

咲はむせた。

「だ、だいじょうぶ?」

慌てて席から立って近寄ってきたネリーが背中をさすりながら言う。

「っていうか、なんできなこモチ? ネリーのには入ってなかったけど……」

ネリーのその言葉には、どうしてお弁当にきなこモチを、というようなニュアンスも込められていた。

「……も、貰いもので……」

息も絶え絶えな口から説明を入れる。

「貰いもの?」

小首をかしげて言うネリー。誰からの、と不思議がるようでもあったが、咲はそれ以上口を噤んだ。

智葉からの貰いものだった。咲にもなんだかよくわからないのだが、軽く話していて、気づいたら一箱ほど貰うことになっていたのだ。

渡す際、智葉の口元がこっそり三日月のように弧を描いていたような気がしたが、咲にはそれが何を意味するかわからなかった。

「ま、まあ、きなこモチは残したほうがいいよ? お弁当にミスマッチだし……せっかくのサキの料理がおいしくなくなっちゃうよ」

「う、うん……また時間を置いて別に食べることにするよ」

息苦しさも大分と和らいできたので、きなこモチをどうするかを決め、他のおかずを選んで食べ進めていく。きなこモチを捨てるという選択肢はなかった。

「でもサキのむせる姿ちょっと面白かった」とネリーが面白がる一方、咲はきなこモチでつまずいてからは順調に食べ進めて、やがて完食する。

「ごちそうさま。……ネリーちゃん、手紙の方、今からでも大丈夫?」

時計で時刻をみてみると、昼の休憩はまだ二〇分ほどはある。

「だいじょうぶだよ、ええと……じゃあはい、これ」

と咲が弁当を片づけている間に準備しておいたのだろう。部屋にある大きな机に昨晩同様、手紙を書く道具が並べられていく。

そして、手紙を書く……日本語に書き直す作業が始まると、互いに熱中して進めていく。

昨晩、咲が見たときもほとんど作業は終わっていると感じた通り、残りは昼休憩を使い切るまでもなく片がつきネリーも満足する出来になったようだ。

「サキ、ありがと! ほんと助かった」

「ううん、こういうのも新鮮で面白いね」

てらいのない笑顔で咲がそう返すと、ネリーはほんの一瞬きょとんとして、次いで朗らかに笑った。

「さて、それじゃあとは手紙だしてくるだけっと」

今から出しにいくのだろうか。授業が免除され望まない限り出席しなくてもいい立場にあるから、やろうと思えばできるのだろう。

しかしネリーは「ううん、今からちょっと用事あるからあとでかな。今日中には出すけど」と答えた。


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