過去ログ - 咲「誰よりも強く。それが、私が麻雀をする理由だよ」
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960: ◆JzBFpWM762[saga]
2016/01/12(火) 23:34:12.99 ID:wCVwz0P2o
他方、咲はというと一連のやりとりを傍観していたのだが、金髪の彼からただようアルコール臭に堪えかねてずっと口元を鼻を覆うようにして押さえていた。

「サ、……ミヤガワ、だいじょうぶ?」

「う、うん」

目に止めて心配げに声をかけてきたネリーに返す。口元は押さえたまま。

「もうちょっと離れてたら、大丈夫だと思う……」

「だいじょうぶそうに聞こえないね……」

ネリーの言葉は図星だった。ちょっと、堪えられない。

頻繁にアルコール臭を漂わせるような人との付き合いは皆無といっていいから、おそらく生来苦手なのもあってけっこうな不快感がある。父は朴訥なところもあるがのんだくれるような人ではないし、たとえそうすることがあったとしても娘の前で憚らず匂わせるようなことはしなかった。こう言うとひどいかもしれないが意外と、エチケットを守る人だった。

他に付き合いのある大人というと……親族くらいだが、彼ら彼女らの場合はますますあり得ない。幼いころは母に連れられて東京にある本家の屋敷に訪れた折、接する機会はそれなりにあったが……あの人たちは何というか、浮世離れした人が多かった。

一般家庭の娘とさほど変わらない咲と比べれば雲泥の差で、海外では爵位を得た貴族という立場の人もいたから不作法というものとはほとほと縁遠かった。ほとほと、というのは咲の心情を正しく表している。礼儀正しいとかそういう一般の物差しでははかり切れない佇まいをしていたから、幼い咲はいつも気後れしていた。

ともかく、そういう意味でわるい大人、あるいは不良グループといった集団とも縁がなく……純粋培養された面のある咲にはこういった異臭に過敏なところがあった。本人も、今自覚した。二つ目の発見である。うれしくない。

「あ〜……」

「ちょっと、口開かないで。ミヤガワがますます辛くなるでしょ」

いたたまれなさそうに口を開いた金髪の彼が、ネリーの辛辣な言葉を受けてますます身を縮ませる。

「くっく、情けないっすねリーダー」

「ああ、面白いもん見れたな」

それを見た連れ合いの二人が茶々を入れる。金髪の彼は酒に弱いらしく「そこらで飲むのはやめといたら……」という一緒に飲んでいた仲間の忠告を無視して飲みすぎた、仕事前に何やってんだか、と二人の仲間に呆れ交じりに笑われていたが、すぐに帰っていった。咲としてはどういう流れで帰ったのかよくわからなかったが、ネリーから「仕事の用件を済ませたんだよ」と教えられて納得した。

「……で、そっちの二人が今日の付き添い、と」

残った二人の男を見ながら、ネリーが言う。先ほどまでいた金髪の彼は、咲がハンカチを取り出して口元に当て「大丈夫ですから」と言うと、言葉少なに「すんません……」と謝ってこの場を去ってしまった。咲は、気を遣ったつもりが悪いことを言ってしまったかな、と思いながら、彼はどういう役割でこの場にいたのだろう、と考えをめぐらせていた。

「はい。今日は俺らが」

「そっちも、今日は二人なんすね」

二人の男が返す。

「そうだよ。こっちはミヤガワ。言うまでもなくプライベートの詮索はタブーだからね」

「了解っす」「はい」と、普通に会話が進む。とくに険悪だったりはしない。金髪の彼が手早く仕事を済ませて、お詫びの約束を取りつけたのもあってかネリーも根に持っていないようだ。咲も、今はハンカチをポケットにしまい、自然体で見守っている。

「それじゃ、いこっか」

言葉を切って、ネリーが踵を回らせる。咲にだけ話しかけたように咲を見つめての言葉だった。咲は「え?」となった。


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