191: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/04/28(火) 03:21:57.02 ID:Z22ZBlJ80
虎城がどうして目が戻ってしまったのかと考えているときに京太郎がぼそっとつぶやいた。
「マジですか。ものすごくものが見えたのに」
世界が止まって見えるほどの目が使えなくなってしまったかもしれないのだ。惜しいと思っていた。代償はもちろん理解している。間違いなく学校に通うのが難しくなるだろう。
目の中に蛍でも入っているような輝く目なのだ。日常生活さえ怪しくなるだろう。しかし京太郎の趣味にはかっちりとかみ合うものだった。利点を考えると、あってもよかったように思ってしまう。副作用だろう血涙については少しも考えていなかった。
京太郎の言い方にカチンと来た虎城が説教でもしようかと構えた。しかしできなかった。運転していたディーが二人に注意を促したからだ。
「ちょっと悪いけど二人とも、気をつけてくれ。やばいのがきた」
ディーはずいぶん困っていた。冷や汗がほほを伝っている。
道のど真ん中に陣取る人影を見つけたのだ。その人影は人一人簡単に入れるほど大きな木箱を担いでいた。その人影は背後から追いかけてくるものたちよりも、スポーツカーの結界を崩しかけたオロチの触覚よりもまずい人物だった。
道のど真ん中に仁王立ちする影の正体はベンケイ、十四代目葛葉ライドウの一番弟子にしてハギヨシの兄弟子である。ティーシャツにジーパン、スニーカーという格好のおっさん。背が高く、鍛えられているので威圧感が半端ではないが、気の抜けた表情が日曜日のお父さん風の印象を与えてくれる。
しかしその実力は総合評価でハギヨシをやや上回っている。これはハギヨシとディーが力を合わせて戦ったとしても、敗北する可能性が高いということで、当然だがディー単体なら間違いなく敗北する。
ベンケイが何を思って行動しているのかわからないディーにとって、この状況はいやな感じしかしないものだった。
万が一、何らかの事情によってベンケイが自分たちの足を止めようと思っているのなら、それだけで帰還は不可能だろう。ディーよりもベンケイのほうがずっと強いのだ。力で押し切ることができないのだから、襲われたら終わりである。
ただ、完全な敵対者ではないだろうともディーは考えていた。というのも、道のど真ん中に陣取って自分たちを待ち構えている。ということは足を止めさせて済ませたい用事があるということだろう。始末するのなら問答無用で遠距離から狙撃すればいいのに攻撃していないのが証拠である。
ではいったい何の用事だろうか。さっぱりわからない。ディーには答えられない。冷や汗もかくというものだ。いやな感じに心臓がはね続ける。胃がもやもやとし始めていた。
スポーツカーを運転しながらディーがこういった。
「ベンケイさん、追いかけてきたのか。勘弁してくれよ」
冷や汗が止まらないディーに京太郎が聞いた。
「あの人は知り合いでは?」
ベンケイとの出会いを京太郎はよく覚えていた。そしてディーの話というのもよく覚えていた。そうなると、ベンケイは知り合いである。もっといえば、味方だろうというのが京太郎の考えだった。
特に、冷や汗をかくような関係ではないというのは、異界物流センターでのやり取りで把握しているのだ。冷や汗をかくような関係であれば、あのときのディーはずいぶんおかしなことになる。
京太郎の質問にディーが答えた。
「確かに知り合いだ。でもな、何を思って行動しているのかわからない。仮に松常久の味方をするつもりならここで俺たちは終わりだ」
ディーは苦笑いを浮かべていた。はじめてベンケイとであったときのことを思い出しているのだ。
ベンケイに仕事の依頼をしたことがディーにはある。それが知り合うきっかけだった。ディーがまだ一般人だったころ、六年前の話だ。そのときは天江教授と、その家族と自分を守ってもらえるように頼んだ。
依頼を出してすぐだった。逃げていた自分たちを追ってヤタガラスから派遣された十四代目葛葉ライドウと次期ライドウ候補だったハギヨシが現れた。
ベンケイに天江教授とその家族、そしてディーを引き渡すように十四代目とハギヨシが話を持ちかけた。十四代目とハギヨシは悪いようにはしないともいっていた。
「天江教授たちを九頭竜の生贄にするつもりなどない。神の手に人の世を任せるつもりなどないのだ」
そして
「きっとヤタガラスの幹部たちを説得して話をつぶして見せる。裏で手を引いているものにも見当がついている」
ともいった。
しかしベンケイは断った。
「申し訳ないが師匠、すでに依頼を受けた後だ。連れて行きたいのなら俺を倒して連れて行ってくれ」
そのときまったく手加減もせずに師匠と弟弟子を相手取って戦い、退かせた。ベンケイはやると決めたら師匠だろうが弟弟子であろうと、関係ないのだ。
当然だがディーも同じ扱いを受けるだろう。消さなくてはならないと決断されていたら、終わりだ。
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