過去ログ - 京太郎「限りなく黒に近い灰色」
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192: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/04/28(火) 03:26:16.31 ID:Z22ZBlJ80
 冷や汗がひどいディーに京太郎はこういった。

「勝てそうにないんですか?」

 京太郎も少しだけ顔色が悪かった。京太郎よりもはるかに強いだろうディーにここまで冷や汗を流させるというのだから、京太郎は自分の死を予想した。今の京太郎なら目で追うことはできるけれども、同じ舞台で戦えないのだ。戦うといって無茶をしてもいいが、動けても一瞬だ。

 攻撃が通るかも怪しい。運転席にいるディーですら、赤子の手をひねるように京太郎をたおせるのだ。そのディーがだめだというのならどうしようもないだろう。

 アクセルを踏み込みながら、ディーが答えた。

「俺と須賀ちゃんが自滅覚悟で突っ込んでも無理。万が一なんてのもない。あの人はバリバリの退魔士、それも十四代目が葛葉の人材から選りすぐった天才。いくら頭をひねってもつぶしてくる。

 だが、最高速と最高速の持続力ならば話は変わる。

 さぁ、はねるぞ! 一気に振り切って龍門渕に向かう!」

 ディーは思い切りアクセルを踏み込んだ。スポーツカーの結界は崩れかけている。本気でアクセルを踏み込み続けたら、結界自体が壊れてしまうだろう。しかしそれでもかまわなかった。生き残るためには必要だったからだ。たとえ結界が壊れて、封じられている荷物が放り出されるようなことになったとしても、それでもかまわなかった。

 悪魔的な加速を行ったスポーツカーがベンケイを弾き飛ばしにかかった。デジタルスピードメーターがありえない速度で上昇を続けて、あっという間に四桁に乗った。そして音速の壁を突破して、ベンケイに迫る。

衝突すれば間違いなく死ぬ速度である。しかしディーの表情は暗い。この程度で死んでくれる相手ではないと知っているからだ。

 スポーツカーがベンケイがぶつかる瞬間、京太郎はベンケイの困り顔をみた。

「やっぱ勘違いされたか」

とでも言いたげだった。そしてあとすこしでぶつかるというところで、木箱を担いだままベンケイは横に飛んだ。スポーツカーは何も弾き飛ばさなかった。そのまま道を駆け抜けていった。

 ベンケイとすれ違ったとき、京太郎はこういった。

「目で追う事もできなかった……」

 悔しいという気持ちよりも、すごいものを見たという気持ちが多かった。京太郎が目で追えたのはベンケイが困り顔を浮かべたところまでだ。ぶつからないようによけたのも、ディーに対してハンドサインを送っていたこともわからなかった。ただ、そのすさまじさだけが心の中に残っていた。


 交通の邪魔にならないところにディーに無視されたベンケイがたっていた。すぐそばには大きな木箱がおいてある。ものすごく困っていた。右手で頭をかきながら、ため息を吐いている。そして愚痴をつぶやいた。

「龍門渕までこいつを運ばせるつもりか?

 勘弁してくれよ、松常久にキャンセル料も請求しないといけないのに携帯電話もつながらないし。

 会社に戻ったら怒られるだろうなぁ」

 どうしてこんな場所にベンケイがいるのか。それはベンケイが落し物を拾ったからである。ベンケイが肩に担いでいた木箱が落し物なのだ。異界物流センターで置いてけぼりにされたとき、この落し物の始末をベンケイが行わなければならなくなった。

 物流センターの職員にいったんは任せようとしたのだが

「弟弟子の荷物なのだから、自分で持っていけ」

といって突っぱねられた。

 そして異界物流センターから猛スピードで逃げ出していったディーに落し物を渡そうとベンケイは動いていたのだ。

長時間のマラソンは難しいが、短い距離ならば追いつくのはそれほど難しいことではなかった。

 しかしオロチが動き出してできなくなってしまった。それどころかオロチ全体が妙な動きをはじめたので、一般のサマナーに被害が出ないように動き回る羽目になった。

 そしてひと段落したところでまたオロチが動き出した。温厚なベンケイでも流石に頭にきた。しかし、目の前で被害が出るというのは気持ちのいいものではないので、久しぶりに本気で動き回っていた。

 そうなってやっと今なのだ。巨大なマグネタイトと魔力の奔流を感じ取り、その後ディーの魔力を感じ取り、急いで走ってやってきた。そしてスポーツカーの進路をふさぐように立ちふさがった。

 「やっと帰れる」

とベンケイは頭をいっぱいにしていた。

 が、失敗した。理由はすぐに予想ができた。

「もしかして松常久の護衛が続いていると思われたか?」

 回避の瞬間にハンドサインを送ったのは

「敵ではない」

という意思を伝えるためだ。これだけで、納得してもらえたらうれしいが、駄目ならいよいよ龍門渕まで走らなくてはならないだろう。

 荷物など知らないと捨てて置けばいいのだが、それができないのがベンケイの性格だった。
 



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