過去ログ - 京太郎「限りなく黒に近い灰色」
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230: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/05/05(火) 00:06:24.77 ID:py78Qnqv0
 井上純の報告を聞いたハギヨシは十秒ほど黙っていた。そして冷えた声でこういった。

「あぁ、そういうつもりですか。はっきりとした証拠がないのと、先輩と私の立場が悪いのを利用しているわけですね。

 かつてヤタガラスの利益の幾つかをつぶした私たちが共謀して松常久を貶めようとしていると、そういうストーリーを作ろうとしているわけですか。

なるほど、先輩を護衛にしていたのはただの偶然でしょうが、利用してきましたね。

 そこまで賢い人には見えませんでしたけど……助言されたか?」

ハギヨシが非常に冷静だったのは

「こういうこともあるかもしれない」

と考えていたからだ。もちろん、可能性があったというだけで、本当にこの手段を選ぶとは考えていなかった。それこそ一パーセント未満の可能性だとハギヨシは見ていた。

 ハギヨシの考えだと、一目散に逃げるのが一番で八割、二番目はスケープゴートを用意して自分は関係ないのだといって逃れる方法が一割と少し。

 虎城に全ての罪を着せるというのも、なくはない方法だった。しかしこの方法というのは虎城どころか京太郎とディーを始末して、かつ情報を外に漏らさなかったときにだけ有効な方法だ。

なぜなら一人でも生き残れば、生き残りに読心術を使い情報を手に入れることができるからだ。そうすれば十四代目は松常久を始末しに動く。

 十四代目からすれば内偵をしなければならないほど黒い相手なのだ。そんなところで内偵を行っていた構成員が行方不明になる事件が起きれば問答無用で始末しに来る。

 何にしても松常久の行動予測が頭にあったハギヨシは当事者である虎城とディーよりも余裕を持って事情を把握できた。

 ざっくりいってしまえば、殺人事件の加害者が証拠のないのをいいことに、被害者と、その関係者に罪をかぶせてしまおうとしているのだ。

「自分ははめられたのだ。証拠もないのに私が犯人だとみなが証言する。おかしいではないか。証拠もないのにどうして私が犯人にされるのか。

 被害者を語るものたちの証言などまったく信用できない。彼らは私をはめようと手を組んでいるのだ。

 確実な証拠を要求する! なければ私を裁くことはできない! 私は白だ!」

このようなものだ。加害者のところを松常久に、被害者の部分をヤタガラスの構成員たちに変えておけば、大体正解である。


 冷えたハギヨシの独り言を聞いたディーがこういった。

「ハギちゃん、証拠なら虎城さんがいる。須賀ちゃんと俺がここまで連れてきた虎城さんがここにいる。彼女は読心術を受ける覚悟がある。証拠になるだろ?」

 ディーは困っていた。額に手を当てて、考え込んでいる。松常久の考えがさっぱりわからないからだ。たしかに松常久のやり方は通らなくもないやり方だ。

普通の裁判ならば、それでどうにか通るかもしれない。完全に黒と言い切れないのなら、処罰するのは難しい。権力もそこそこにもっている松常久であるから逃げ切れるかもしれない、普通の裁判なら。

 しかし、松常久が事件を起こしたのはサマナーたちの領域だ。裏の世界といっていい領域である。悪魔がはびこり、超能力が飛び交う世界だ。普通の証拠などまったく意味を持たないのは常識である。

常識だからこそ、読心術を使うという必殺技があるのだ。当然今回も読心術を使うだろうし、使って当然と誰もが言う。そうすることで簡単に真実がわかるからだ。ならば、逃げ切るのは無理だろう。

 ディーもサマナーの常識がわかっているので、松常久のやり方がさっぱりわからなかった。

 うろたえているディーにハギヨシがこういった。

「力押しでくるでしょう。おそらく松常久はこういいますよ。

『虎城は共犯者なのだ。ハギヨシたちと手を組んで私をはめようとしている』と。

 もしかしたら、こういうかもしれませんね

『十四代目は弟子たちを使って自分を落としいれようとしている。ライドウは信用できない』と。

 もう少し突っ込んでくるかもしれませんね。たとえば

『龍門渕も協力しているに違いない。六年前の事件で株を上げたことに味を占めているのだ。今回は私をつぶすことで利益を得ようとしているに違いない。
 私に読心術をかけて有益な情報を奪おうとしているのだ! 口座番号、裏金のありか、特殊な技術。私にはそれがある!』

などという感じで。

 まぁ、ケチを付けられるところにつけまくり延命しようとしている、というところでしょうか」

 ハギヨシは目を細めていた。松常久がどのような行動をとろうとしているのかを話すハギヨシの口調からは余裕が感じられた。それもそのはずで、いくら松常久がもがいたところで結末は変わらないという確信があるからだ。

 まずすでに、十四代目には全てを報告している。そうなれば十四代目はヤタガラスに働きかけるに違いない。内偵を進めていたのだから、当然十四代目は動く。十四代目が動けば、これだけでヤタガラスは松常久を切りにかかるだろう。長きにわたり帝都を守り続けたライドウの影響力、カリスマというのは非常に大きいのだ。

 何なら、ディーからの報告から手に入れた松常久が悪魔に堕ちたという情報を使い始末してもいいのだ。いくら小ざかしく立ち振る舞ったところで、結末は揺るぎようがない。



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