過去ログ - 京太郎「限りなく黒に近い灰色」
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235: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/05/05(火) 00:25:33.29 ID:py78Qnqv0

 この複数の幹部級の裏切り者というもしもがなければ、結末は松常久の処刑で終わるだろう。確実に誰かが始末する。

 ただ、始末されればそれでいいのだろうか。少なくとも傷つけられたもの、馬鹿にされたものが救われない。

 虎城はうつむいて涙を流した。

 静まり返った会場。松常久が勝利を確信したとき、会場の扉が開いた。扉は大きな音を立てて開かれた。力加減がわからなかった京太郎が、思い切り扉を押したからだ。あまりにも強く扉を押したために、扉が壁にぶつかっていた。高価な金具がガタついた。


 虎城の心がへし折れる少し前の話だ。客室で国広一が京太郎を勧誘していた。

「もしよかったらさ、このままヤタガラスに入らない? 龍門渕所属でさ」

 ドライブでおきた一部始終を話した京太郎はアンヘルとソックから長い説教を受けることになっていた。説教中の京太郎はただ黙って聞いていた。京太郎も頭の悪いことをやったとわかっていたからだ。もしも他人が自分と同じことをしたとしたらもう少し賢くなれと注意していただろう。

 アンヘルとソックの説教の間に、国広一は少し頭を働かせたのだ。彼女が考えたのは、

「京太郎を自分たちの戦力にできないだろうか」

ということだった。

 もともと龍門渕にはサマナーが多い。長い間ヤタガラスの幹部をやっているのでネームバリューもある。それに資金に余裕があるためほかの支部よりも人材を集めやすかった。

 龍門渕は総合的に強い。とくに情報操作、情報収集、資産運用、魔法道具の創作に力がある。京太郎についての情報操作を行い、スムーズに日常に戻したのも龍門渕である。

 しかし龍門渕は総合して見ると評価が高いのだけれども兵力が低い。ハギヨシのような前線で戦える退魔士というのがほとんどいなかった。人数こそ集められるが、武将がいないのだ。前線専門で戦えるタイプというのはハギヨシとディーくらいのものである。これはまずかった。

 時代の流れからほとんどのサマナーが機械に頼った召喚術を使うのだ。便利なのはわかる。退魔士というつらい修行を積まなければたどりつけない境地を目指すものは少ないだろう。

マグネタイトを増やして、上級悪魔を呼べば修行など積む必要がなくなるのだ。素質が全てだったはずのマグネタイトは資金と資材さえあればいくらでも用意できる。時間と金さえあれば上級悪魔を凡人が呼び出せるのだ。そうなると便利なものを使わないわけがない。

 しかし退魔士というのも必要なのだ。全て機械頼りだとバランスが悪い。それこそ京太郎のような稲妻を使うタイプが戦う相手であればあっという間に召喚不可能になる。

いくら対策をしても精密機械は魔法の種類によっては一発で動かなくなる。稲妻など食らった日にはいうまでもないだろう。直撃を受ければ確実に壊れるだろうし、近くにいるだけでも強烈な磁界に巻き込まれてまともに動かなくなる。

 国広一からするとこれからの二十年、三十年は龍門渕透華の時代だ。龍門渕は透華が引っ張っていくのだ。そのときに純粋な武力がないのは恐ろしい。策士ではなく武人がほしいのだ。

 不安が多いのはよろしくない。国広一は「龍門渕透華の戦力」を増やしておきたい。ハギヨシもディーも正式な龍門渕の戦力ではないのだから、このときにでも増やせるのならば増やしておくべきだった。

 そしてこのタイミングならアンヘルとソックも簡単に自分の味方をしてくれると判断した。簡単に修羅場におどり出て、はるか格上と戦うような無茶をするマスターを持っているのならば間違いないだろう。

 なにせ日本国内でならば公権力と連携して動けるヤタガラス。そして資金の援助も多い龍門渕とのコネクション。マスターのことを心配している二人ならばうなずいてくれるだろうと予想した。また、アンヘルとソックさえ味方につけさえすれば、京太郎を説得するのは非常に簡単だと国広一は見抜いていた。

 そのあたりをついて説教中に、勧誘を差し込こんだのだ。

 国広一が京太郎を誘うと説教をしていたアンヘルがうなずいた。そして国広一の思惑通り、京太郎にヤタガラスへの所属を進めた。

「いいかもしれません。面倒なストーカーも抑えられるかも。

 それにメシア教会とガイア教団がちょっかいをかけてくるかもしれませんから、今のうちに手を打っておくほうがいいかもしれませんね。

 鬱陶しいだけですから」

 説教をしていたアンヘルは実に切り替えが早かった。すでにアンヘルの中では京太郎がヤタガラスに所属することは決定事項のようだった。国広一が何を思っているのかというのは少しも考えていない。

アンヘルからすれば、国広一がなぜ勧誘しているのかなどという瑣末な問題よりも、超ド級のストーカーからどうやって自分のマスターを守るのかという問題のほうがはるかに大切だった。

ヤタガラスに所属すればいくらかましな状況になるだろう。運よくすれば十四代目葛葉ライドウに話をつけてストーカーを黙らせることができるかもしれない。国広一の提案というのはアンヘルの目的とかみ合っていた。だから簡単に乗ってきたのだ。

 アンヘルが国広一の勧誘に乗るような話をして、少し間をおいてからソックが笑った。そしてこんなことを話した。

「天使ならメシア教会を薦めておくべきじゃないのか? というか、鬱陶しいって」

 国広一の提案にアンヘルが乗ったことをソックは何も追求しなかった。アンヘルが考えているような内容をソックも考えていたからだ。国広一に思惑があるというのはわかっていたけれど、たいした問題でないと判断していた。

それよりも、もともと天使だったはずのアンヘルがメシア教会を薦めないのが面白かった。出会った当初からおかしな天使であったが、鬱陶しいなどと言うとは思っていなかったのだ。




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