過去ログ - 京太郎「限りなく黒に近い灰色」
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239: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/05/05(火) 00:40:03.94 ID:py78Qnqv0
 松常久が「はじめまして」と答えたところで京太郎のワイシャツを虎城が引っ張った。京太郎の背中でうつむいている虎城も京太郎のたくらみを見破っていたのだ。

 そして虎城はすぐに京太郎が何をしようとしているのかも理解した。京太郎は自分の変わりに松常久を言い負かそうとしているのだと。だから止めようとした。松常久は無茶なことをやっているけれども、それなりに頭が回るのだ。

ここで印象を悪くして京太郎が不利益をこうむるのは虎城の望むところではない。

 虎城はこう思うのだ。

「私が泣くのはかまわない。ただ、須賀くんが巻き込まれてはだめ」

 しかし、声は出せなかった。うれしいやら悲しいやらと感情が混じり、思考が統一できず、体力の消耗も加わっていよいよのどが動かないのだ。
 自分のワイシャツを引っ張っている虎城を無視して京太郎はこういった。

「そうでしょうか。俺たちはオロチの腹の中で殺しあいました。初対面とはいわないはずです」

嘘を言う理由がない。本当のことだ。オロチの腹の中で出会い、命の取り合いをした。忘れられない体験だった。

 すぐさま松常久は返してきた。

「病院にいったほうがいい。それも大病院だ。君は妄想と現実の区別がつかないらしい。頭の調子を見てもらったらどうかな」

 松常久の話では二人は出会っていてはいけないのだ。だから京太郎の話は全て妄想だと切り捨てた。そうしなければ自分の話の筋が通らない。

 少し考えてから京太郎はこういった。

「悪魔に変身したあなたの姿をよく覚えているのですが」

 なぜ、松常久が嘘をつくのかがわからないのだ。自分と出会い、一戦を交えた。悪魔に変身した松常久の姿はよく覚えている。石膏像のような顔、二メートル近い身長。胴体部分に五体の生き人形がはめ込まれていた。頭を砕いたときの感触もしっかりと覚えている。京太郎はただ、認めてもらいたいだけだ。

そうしなければ久しぶりという挨拶が間違いになってしまう。

 松常久の返しは非常に早かった。ほとんど間を空けずに言葉を打ち込んできた。

「人間が悪魔に変身するわけがないだろう。それに悪魔に変身する術は、禁術だ。

 君は知らないかもしれないが、生物の肉体を持った悪魔というのは大変危険なんだ。特に人間の肉体を持った悪魔なんてとんでもない。サマナーの常識だよ、君。

 私がそんなマネをすると思うのか。ヤタガラスの準幹部である私が。

 もしかすれば、幹部に昇格できる立場にいる私が、そんな馬鹿をやるとでも?失礼にもほどがあるぞ」

 間を空けずに答えられるのはこのやり取りを予想していたからである。どんな玉が飛んできたとしてもしっかりと返せるように予想を立てていた。そしてしっかりと、演じていた。京太郎の、その場で考えた質問などまったく松常久を揺らがせなかった。


 京太郎の質問を完璧に叩き返した松常久は、急に頭をおさえ苦しみ始めた。顔色が悪くなり、脂汗を浮かべている。今にも倒れてしまいそうである。松常久は気分が悪くなっているのだ。そして頭が非常に痛い。体が鉛のように重くなり、手足を動かすのが難しくなってきている。

 京太郎と松常久のやり取りが済んだ所で京太郎の背中を虎城が叩いた。うつむいたまま京太郎の背中をパシパシと平手で叩いていた。

 これは虎城の「もういいから」という気持ちを形にしたものだった。彼女はもう、この場所で松常久をとらえるのをあきらめたのだ。言い逃れする松常久を自分たちが捕まえきれないのはもうわかった。だから、京太郎にもうがんばらなくてもいいと伝えたのだ。

 次の京太郎の行動が虎城には予想できている。このままやり取りを続けていたら京太郎はきっと暴力に走るだろう。目的は簡単にわかる。暴力に走れば松常久は悪魔に変身するかもしれないからだ。

 しかし暴力に走った瞬間、京太郎は凶暴な魔人だと認められることになる。松常久はこれも読んでいるだろう。きっと変身せずに耐えるに違いない。結果起きるのは京太郎の終わりである。虎城には認められないことだった。だからもういいと彼女は背中を叩いたのだ。




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