241: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/05/05(火) 00:46:34.47 ID:py78Qnqv0
京太郎に声をかけられたハギヨシがあわてて携帯電話を操作し始めた。今までの怒りは引っ込んでいた。京太郎の切り返しに頭が冷えたのだ。そして今、自分は何をするべきなのかを理解した。
いまするべきなのはエンブレムがどこにあるのかをはっきりさせること。ハギヨシならばエンブレムがどこにあるのかを調べられるのだ。だから急いで確認した。
ハギヨシが調べている間、松常久は、自分の頭に手をあてていた。顔色は青を通り過ぎて白くなっている。絶望からか、目に光がない。松常久は終わりが近づいてきたのを感じているのだ。
会場がざわつき始めたところでハギヨシはこういった。
「確認しました。エンブレムは今、この場所にあります。松さん、あなたの頭の中にある異物、それが何なのか確かめなくてはならないですね」
携帯電話に示されている座標をハギヨシは会場全体に示した。龍門渕だ。これで松常久の黒が確定した。
ハギヨシの宣言を受けて、京太郎が再び挨拶をした。
「お久しぶりです。松常久さん」
松常久は始めましてと返してはいけなかった。しかしお久しぶりですと答えるのもいけなかった。京太郎が目の前に現れ挨拶をしたとき松常久の終わりは決定していた。もう言い訳はできない。処刑はここで行われる。延命はない。
松常久は黒で終わりとはっきりした。しかし彼はあきらめなかった。マグネタイトが吹き上がり松常久の姿が変わる。そして三人の黒服たちもまた、姿を変えていった。
松常久が悪魔に姿を変えたのは京太郎を始末するためだ。京太郎だけは生かしておけなかった。
三人の黒服たちが悪魔に変身したのは、逃げるためだ。彼らは松常久と心中するつもりはなかった。
叫びながら松常久は京太郎に襲い掛かった。
「貴様が! 貴様さえいなければ!」
叫びながら振りかぶられた右腕は京太郎もろとも虎城を始末する軌道を描いていた。いよいよ何もかもがだめになったのだ。京太郎と虎城を道連れにでもしなければ死に切れなかった。
全ては一瞬の出来事だった。襲い掛かる松常久にあわせて、京太郎の攻撃が打ち込まれた。たしかに松常久の動きは非常にすばやかった。野生動物ならばたやすく刈る力もあった。ただ、京太郎には遅すぎた。
松常久の拳が振り下ろされるよりも早く、京太郎の拳が松常久に届いた。京太郎の拳は五発打ち込まれた。場所は全て、松常久の胴体である。
あっという間に松常久はぼろぼろになりパーティー会場の床に崩れ落ちた。しかしまだ生きている。自己再生を行っていたが、非常に遅かった。マグネタイト製造機五つ全てが失われたからである。
松常久が生きているのは京太郎が完全に破壊しなかったからである。しかしこれは松常久を見逃したということではない。松常久の「魔人」という言葉を聞き逃さなかった京太郎がわざと生かしているのだ。
京太郎はわからなかった。松常久がどうして自分が魔人であると知っているのか、わからなかったのだ。 確かに京太郎は魔人である。それを知っている人もいる。ただ、誰もが知っていることではない。
ドライブ中に虎城とした話から推測すれば、十四代目葛葉ライドウが情報制限をしかけているのは明らかだ。内偵を行う者たちの班長たる虎城が教えられていないのに、どうして内偵をかけられる相手が自分の情報を知っているのか。
確かに京太郎が魔人だと知る方法はある。魔人警戒アプリを使い京太郎に近寄ればいい。そうすれば警告音が鳴り響き正体がわかる。龍門渕のメイド、沢村智紀がしたように。
ただ、オロチの腹の中で出会ったとき、また異界物流センターで出会ったときに誰も警告音を響かせなかった。となれば、どこで情報を知ったのかという話になる。
いろいろな可能性はあるだろう。たまたま誰かが漏らしたという可能性。なくはないだろう。偶然たまたま、耳にして魔人だとわかった。パーティー会場にいる人たちのようなパターンだ。もしかすると姿を確認するだけで魔人とわかる異能力があるのかもしれない。
しかし京太郎はこう思うのだ。
「誰かが、松常久に情報を流したのかもしれない。この誰かとはライドウ経由ではなく、たとえば俺が魔人になった瞬間を離れたところから見ていたとかで情報を手に入れた何者か。
ならば、その人物を探らなくてはならないだろう。なぜならその人物は松常久と連携して罪を犯していたのかもしれないから」
龍門渕透華の父親と祖父が冷えた目で会場を監視していた理由でもある。京太郎は情報の先に誰がいるのかわからなかったが、生かしておくことが尻尾をつかむきっかけになるとわかっていたのだ。だから、生かしておいた。
後は龍門渕に任せるつもりだ。何もかも読心術でさらけ出すことになるのだから、松常久と仲良くしている誰かも見つけられると踏んでいた。
松常久を叩きのめした京太郎は自分の手の中にあるものをじっと見つめていた。京太郎の手の中には五つの人形があった。少しひび割れているものもあったけれど、どれもしっかりと人形の形を保っていた。
人形を見つめていた京太郎が微笑んでいた。ほっとして、大きく息を吐いている。自分の手の中にある五つの生き人形からマグネタイトの鼓動を感じられたからだ。自分の両手が松常久の血液で汚れているのは少しも気にならなかった。ただ、取り返せたことがうれしかった。
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