70: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/04/07(火) 06:15:33.22 ID:Joyq1BtQ0
ベンケイと松常久がもめていると運転席に座っていたディーが降りてきて、こういった。
「松 常久さん、残念ですが構成員の引渡しには応じかねます。
すでに事情はヤタガラスで確認しております。申し開きがあるようならば十四代目葛葉ライドウと幹部たちの前でお願いします。お引取りを」
ディーの声は実に淡々としていた。死刑宣告をする裁判官のようだった。ディーがこのように話しかけたのは、松常久にあきらめさせるためである。
これ以上騒がれるのはうっとうしくてしょうがないのだ。
なぜライドウと幹部たちの名前を出したのか。それはヤタガラスの幹部たちが裁判を行うということが、わかりやすく真実をはっきりさせるからである。
サマナーの世界では非常にシンプルな方法で有罪なのか、無罪なのかが判断される。その方法というのは読心術である。
人間の心の表面だけをなでる読心術ではない。ヤタガラス本部で幹部立会いの下で行われる読心術は、術をかけられた人間が忘れている情報であっても白日の下にさらす。たとえ、生まれた瞬間に見た光景であってもはっきりと読み取るのだ。
この強力な読心術を容疑者にかければ白なら白、黒なら黒とはっきりする。そしてヤタガラスのボスの名の下に幹部が裁判を行うとなれば拒否権はない。
力づくで裁判の場に連れ出される。今回ならば内偵を命じていたライドウじきじきに引っ張りにくるかもしれない。
松常久が真実を話していようと、虎城が真実を話していようと関係ないのだ。もう、どうすることも松常久にはできない。
だから、黙って引き下がれとディーはいうのだ。松常久とのやり取りは一切無駄で、うっとうしいものだとディーは切り捨てていた。
ディーが突き放すと、松 常久は大きな声を出した。
「黙れ! 貴様私を誰だと思っている!ライドウがなんだ! こんなことが許されるわけがない! 私がどれほどヤタガラスのために働いたと思っているのだ! 私を疑うんじゃない! その小娘を疑え!」
松常久の叫びは駐車場に大きく響いた。この叫びがこの男のすべての気持ちである。ヤタガラスの判断方法をとられたら自分のすべてがあっという間に崩れることを理解していたのだ。
だから、叫んだ。何とか生き残るために、醜く叫んだのだ。
松 常久の叫びは奇妙な残響をおこした。
そして残響が収まったところでぞろぞろと男たちが現れた。男たちはスーツを着ていた。どの男もそれなりに鍛えているらしいことがわかった。
その中の一人がこういった。
「ボス、逃げられました。発信機のあとを追いかけてみたのですが、どうやら引っ掛けられたみたいです。
見てください。黒マグロですよ。しかも氷詰めの。こいつに帽子をひっつけて逃げおおせたみたいです。
あの短い時間によくここまで小細工ができたものだ。
後方支援担当班だったはずなんですけどねぇ。ずいぶん機転が利く。半端ものの四人とは違うらしい」
十名の黒服を着た男たち。その一人が魚のにおいが染み付いたヤタガラスの帽子を見せた。ヤタガラスの帽子にはエンブレムがついていた。
京太郎も同じものを持っているのだが、虎城はこのエンブレムを使い男たちから逃げていたのだ。
発信機の信号を追って松常久たちが追いかけてくると予想した虎城は発信機を逆手に取ったのだ。
十名の男たちを視界に治めた京太郎は鼻を押さえた。耐えられない悪臭を嗅ぎ取ったのだ。それは松常久から漂うものと同じ匂いだった。
今まで生きてきた中でこのような匂いをかいだのは初めてだった。
ぞろぞろと現れた黒服の男たちを見て京太郎がディーに合図を送った。京太郎の目が、ディーを見つめた。
そして、ディーと目が合ったとき京太郎は出入り口を見た。ディーはそれをみてうなずいて、運転席に滑り込んだ。
京太郎もディーもこの狭い空間で十人単位の敵と戦うのは難しかった。始末するのがではなく、駐車場にいる人たち、悪魔たちに危害を加えないように戦うのが難しかったのである。
黒服の男たちに向けて、松 常久がこういった。
「遅いぞお前たち! 娘ならここにいる。あの車の中にな!」
黒服たちが事態を飲み込めずにざわついている中、ウエストポーチに京太郎は手を突っ込んでいた。煙だまを取り出して使い、逃走の助けにしようとしているのだ。
京太郎の頭はさえていた。今の今まで感じていた激痛はどこかに吹き飛んでいる。
頭の中を駆け巡るのは戦いの方法と、この修羅場をどのように潜り抜けていくのかという思索ばかりだった。
考え付く方法の中で、一番よい方法というのは撤退だった。ここで完全につぶしてしまうというのも選択肢としてはありだった。しかし京太郎の魔法と乱戦の被害が異界物流センター全体に及ぶ可能性を考えると選べなかった。
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