71: ◆hSU3iHKACOC4[saga]
2015/04/07(火) 06:20:35.35 ID:Joyq1BtQ0
京太郎とディーが周りを巻き込まないように逃げの一手を撃つべく動き始めると、ベンケイが話しかけてきた。
「なぁ、須賀くん。もしも君がヤタガラスに入るつもりだったりするのなら、やめておいたほうがいいと俺は思う
この世界は、こんなやつらばかりだからな。人の皮をかぶった悪魔ばかりだ。真面目に勉強しているほうがずっといい。
それでも、ヤタガラスに入るつもりなら、修羅にならなければならない。俺たちみたいに」
ベンケイは京太郎を見ていなかった。松常久とその部下たちをにらんでいる。
京太郎のことを思ってヤタガラスに入るなとベンケイは忠告していた。
ヤタガラスは巨大な組織だ。悪魔から人を守り、国を守り続けている。しかし、ヤタガラスといえど人の作る組織である。権力を持ったものが落ちていく腐敗の道からはヤタガラスも逃れられなかった。
ベンケイはその事実を身をもって理解している。そしてベンケイの弟弟子も同じように理解する羽目になった。ベンケイは京太郎にそうなってほしくなかった。それだけなのだ。
ベンケイの語りかけに応えることなく逃走の準備が完了するやいなや、京太郎は煙だまを地面にたたきつけた。
ベンケイに進退を答えている時間などないのだ。
煙だまはあっという間に周囲の視界を失わせた。煙だまを用意した京太郎の仲魔はずいぶん力を入れて作ったようで、駐車場が夜になっていた。
煙であたりの様子があいまいになっている間に、京太郎は助手席に乗り込んだ。煙によって光がさえぎられていたが、感覚がとがっていたことで普通に行動することができていた。
助手席に乗り込んだ京太郎の顔色はよくなかった。ぎらついていた目はもうない。京太郎の目は迷いの色を帯びていた。
ベンケイの忠告は京太郎に届いていたのだ。そしてベンケイの忠告から、恐ろしいことに楽しみを感じているという事実に京太郎は気がついてしまったのだ。
迷いが生まれていた。しかし駐車場から逃げ出さなければならないことは理解していたため見事に仕事を果たすことができた。
駐車場で戦えば、被害は半端ではすまない。ならば、逃げ出さなくてはならない。この異界物流センターを利用する人たちを巻き込んではいけないのだ。
京太郎が乗り込むのを確認するとディーはあっという間に車を発進させて、その場から逃げ出した。
スポーツカーのタイヤが鋭く回転し始めて、駐車場のアスファルトを削った。一秒もかからないうちに煙幕を突き破ってスポーツカーは姿を消した。
煙が晴れると松常久は部下たちに命令を出した。
「追え! あの娘を逃がすな! くそっ! 絶対にあきらめてなるものか!」
大きな声で叫んでいた。周りにいる人たちのことなどまったく気にしていない。松常久は自分のすべてを壊すのは、あの小娘、虎城ゆたかであると信じていた。あの娘さえいなければ自分の力を、権力を見事に使いきってこの難しい問題を乗り切れると信じている。だから小さな問題には目もくれない。
部下たちに命令を飛ばすと部下の運転する装甲車に乗り込み、ディーの運転するスポーツカーを追いかけていった。
松常久の目はベンケイを少しもみなかった。松常久が追い求めているものは目の前の明らかな破滅の種だけなのだった。
後に残されたのは、木箱に入った氷結した黒マグロと暗い顔をしたベンケイだけであった。駐車場での騒ぎを聞きつけて、異界物流センターの中からいろいろな人たちが顔を出し始めていた。
一人残されたベンケイの顔色というのは暗かった。というのが松常久たちの後始末を自分がしなくてはならない流れになっていたからである。
騒ぎを聞きつけて顔を見せ始めた物流センターの職員たちに説明もしなければならないし、置いてけぼりを食らい放置された黒マグロにも対処しなければならない。
そして今回の事件の事実確認もしなければならない。
面倒なことである。
どう職員たちに説明をするかと悩みながら、ベンケイはつぶやいた。
「最高速は隼並か。しかし、まともな訓練は受けてこなかったみたいだな。動きがまだぎこちない。
しっかりとした師匠につけば、更によくなるが…いまはよろしくない。
しかし、逃げるならこいつも持ってくれよ。このマグロ、どうすりゃいいんだ?」
龍門渕透華の用意した黒マグロである。かなり大きなマグロで二百キロ級である。このまま捨てておくわけには行かなかった。
悪魔に食べさせるというのもあったのだが、ディーが教えてくれたパーティーの話から持ち主が予想がついたので、それもできなかった。
この場で一番の貧乏くじを引いたのは間違いなくベンケイであった。
265Res/788.70 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。