17: ◆DFyQ72NN8s[saga]
2015/04/04(土) 06:10:24.60 ID:JO/9j/TF0
梓ちゃんと出会ったのは、そんな春の日のことでした。
お姉ちゃんがいる軽音部が、新入生歓迎ライブで講堂のステージに
立っている時−−私の隣で、背伸びをして必死にステージを見ていた可愛い女の子。
それが彼女−−中野梓ちゃんとの出会いでした。
それから私たちはクラスが同じだったこともあってか、すぐに仲良くなりました。
同じ中学だった純ちゃんも合わせて3人で、いつも一緒に過ごすように
なるまでそれほど時間はかからなかったと思います。
梓ちゃんはいろんなことを話してくれました。
入った軽音部のこと、私の知らないお姉ちゃんのこと、“あずにゃん”というあだ名のこと。
澪さんや律さん、紬さんのこと、さわ子先生のこと。それから梓ちゃん自身のこと。
梓ちゃんはいろんなことを訊いてくれました。
家にいる時の私のこと、梓ちゃんの知らないお姉ちゃんのこと、
好きな漫画や音楽のこと、家族のこと。そして私から見た梓ちゃんのこと。
時々私がひとり泣き明かした次の日は、理由もきかず髪を撫でてくれたり、
私の髪を綺麗だと言ってくれたり、作ったご飯を美味しいと言ってくれたり……。
そうしたなんでもない事で、梓ちゃんはゆっくり、ゆっくりと
頑なになりかけていた私の心を、解きほぐしていってくれたのです。
そして、心が解きほぐされた時、私は初めて−−お姉ちゃん以外の人に
心を揺り動かされ始めていたことに気付いたのです。
季節はゆっくりと、確実に流れました。
お姉ちゃんは高校3年生の文化祭の後、他の軽音部の皆さんと
同じ大学を受験し、家を出ることを決めました。
それからのお姉ちゃんは、私も驚くくらい勉強に励んでいたのを憶えています。
私には少し、その姿が家を早く出たがってるように見えて寂しくなりましたが、
変わっていくお姉ちゃんが今までよりもっと輝いて見えて、言葉を飲み込みました。
そして努力の末、お姉ちゃんは軽音部の皆さんと同じ第一志望の大学に合格しました。
だけど合格発表の後に私が「おめでとう! やったねお姉ちゃん」と伝えると、
ほんの少しだけ、寂しそうに笑ったのが、不思議でした。
卒業式の後、久しぶりに揃った家族でお祝いをしている時も、お姉ちゃんはどこか悲しそうにしていました。
私は結局お姉ちゃんの本心がつかめないまま、残り少ない日々が過ごしていったのです。
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