過去ログ - モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part12
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412: ◆R/5y8AboOk[sage saga]
2015/08/14(金) 04:10:44.22 ID:+FUAmXwk0

「…高そうなお酒ですね。さぞ良い味がするのでしょう」

 向こうに広がる光の海へと向けていた鋭い目つきを、ふと赤紫の液体に向けて女は言った。
 先刻までガンベルトを伴うライダースーツと硝煙の匂いに包まれていた彼女も、今は高級な特注スーツと淡い香水で身を飾っている。一部の隙も無く整えられたスーツに相応しく、その佇まいは完璧なものと言えた。
 後は、瞳に残っている戦の剣呑ささえ抜ききればどこに出しても良い社長秘書の顔つきだろうと思われたが、それは今すぐ要求するものではない。

「皮肉かよ、つくづく遠慮の無ぇ奴…ハッ!社長なんだ、安物飲んでたら示しがつかねぇだろ?」

 夜光を含んで輝く、白い肌と燃え立つような金の長髪。愉快げな色を匂わせて返す声もまた、女―――いや、少女と言った方が正確であろう。

 そういう話をしたのではない。とでも言いたげな女の溜息を背中に聞き、細指に支えたグラスを夜景に重ねると「確かに未成年だがな」と重ねる。

「…が、この街にアタシを裁ける奴は居ない…居るとしたら殺しに来る奴」

 赤紫の先に光の洪水を透かし、確信を持った声音で言い切った。
 そして、「だから留美…お前が居るんだろ?」と言った声とぎらついた瞳を振り返らせると、女が思わず言葉に詰まった隙を付いて液体を一気に呷った。喉を鳴らして奥へ流し込み、はっとする留美の息遣いを感じながら芳醇な香りで口中を満たした彼女は、やりきった顔で満足そうな息を吐き出し、飽きれたような留美の溜息に悪戯っぽい笑みで応じた。

「そんなことよりも、だ…例のモンはちゃんと確保したんだろ?」

「『野望の鎧』は間違いなく…ええ、最低限の部位だけですが。今は三番格納庫に…それと、GDFとヒーロー同盟双方に嗅ぎまわられているので、ご留意を」

「OK…飛鳥の方は…あの強欲の奴はいつも通りで問題ないか?」

「はい。既存のバックアップを維持しておけば良いと」

 と、そこまで聞いた少女は熱っぽく紅潮する口元をにいと歪め、「帰郷直後の吉報としちゃあ上出来だな…ボーナスは期待しておけよ」と興奮抑えきれぬように言った。酒で気分良くなっただけではないだろうと留美は考える。―――アジアから日本に帰国してきたのはつい先日の事。ただふんぞり返るのを嫌うこの女の事、わざわざこっちに足を運んだからには、こちらに注力すべき用事ができたと見てまず間違いない。
 開口一番でヒーローとGDFのただなかに突入させられるのだ、今後は一体どうなることか―――。

 脳裏に嫌な予感をいくつも呼び出し、なんとか嫌そうな顔を堪えた留美は、気持ち金髪の少女に近寄る。

「…つきましては社長、今回の見返りに休暇を貰いたいというのは」
「ダメだ。これから忙しくなるからな」
「………」

「スケジュールは今日中にまとめ上げっから、明日からはそれでヨロシク」
「少し前から予定は開けさせてあったな?明日の昼からはもうアタシの指示に従ってもらうから、死ぬ気でな」

 有無を言わさぬ畳みかけの最後、少女もう一つ興奮気味の笑みを見せつけると、露骨に鬱陶しそうな顔の留美を無視して鞄をさらった。おそらく中にはノートパソコンでも入っている。もう仕事を始めているのだと理解すれば、留美はもうその背中を見ることはしなかった。

 張りのある肌は彼女がまだ若々しく力の有り余る時期である証左。
 豊かな金髪は内に秘めた情熱をそのまま燃料にしているかのように燃え輝いている。
 齢を未だ十八。が、それが故にと彼女の口は語る。


 ―――桐生つかさ。桐生重工三代目社長。
 衰えなど遥か遠く未来の話と断ずるその瞳は少女に似合わぬほど覇気を秘め、充足を知らず、妥協を知らず、ただただ満たされぬ渇きを以てぎらぎらと輝き続けていた。





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