過去ログ - 白菊ほたるの場合【R-18】
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9: ◆Freege5emM[saga]
2015/04/06(月) 22:41:03.25 ID:Busjx15yo


●13

ある日、私が事務所の控室に入ってみると、ほたるちゃんが椅子で眠り込んでいました。
彼女はヘッドフォンをしながら、だらりと背中を背もたれに預けていました。
デモとか聞いている内に、疲れが出てしまったんでしょうか。

そんな寝方をしていたら、身体を悪くしてしまう――と思って、
ほたるちゃんを起こそうとすると、私の目線は彼女のくちびるで止まりました。
すぅすぅと寝息を立てるくちびるは、ほんの少しだけ白い歯が覗いていました。

私は、とても無防備な様子を放っておけなくて、
くちびるを閉じないと喉に悪いよ、なんてお節介が頭に浮かび、
自分の人差し指をほたるちゃんのくちびるに持って行きました。



ほたるちゃんの、本当にかすかな呼吸と、乾き気味の粘膜の感触が、私の指先をくすぐりました。
そのとき私に、この感触をもっと味わいたい、という衝動が湧き上がりました。



「――んっ……あ、え……?」

気づけば、私は眠ったままのほたるちゃんに、自分のくちびるを重ねていました。

彼女を近くで感じていたいという欲求のまま、彼女の反応とか、
もし人に見られたときどう思われるかなんて想像が思考の靄(もや)に隠れて、
このたった数センチの触れ合いの誘惑に、私はうかうかと吸い寄せられたのです。

「ふ……ふぁっ、か、茄子、さん……? あっ……んぁあっ」

私の熱に浮かされた意識は、ほたるちゃんの覚醒で水を差されました。

「あ、起こしてしまいました? お疲れだったんですねー」
「い、今、茄子さんは、私に……?」

くちびるは、あえなく離れてしまいました。
ですが、ほたるちゃんは椅子に座っていて、その上から私は覆いかぶさってキスしていたので、
顔はお互いの息を頬で感じ取れるぐらい近くにあります。

寝ていたはずのほたるちゃんは、みるみるうちに白い肌を赤く染めました。
もしかして、初めてのキスをいただいてしまったのでしょうか。



私は、そうだったら嬉しいな――と想像して、
それがすぐに、きっとそうに違いない――という独断へ差し替えます。
この都合のいい私の思考回路は、幸運に慣れきったせいでしょうかね。

「あ、あの茄子さん……そんな、近くで見つめられると、私……っ」

私は、ほたるちゃんが私と同じ風に思ってくれていたらいいな、とも思いました。
だって、そうだったらとても素敵でしょう?

「か、茄子さんっ――」

私は、もう一度ほたるちゃんとくちびるを重ねました。



あくる日、ほたるちゃんのプロデューサーが頭を抱えているところを見ました。
悪い虫がついてしまったのでは、などとぶつぶつ呟いていました。

「ほたるちゃんの首のキスマークを見咎めたなら、彼女に謝っておいたほうがいいですよ」

私の言葉で、プロデューサーは怪訝な表情を見せました。
彼が理解してくれなかったようなので、私は補足を付け足しました。

「そのキスマークをほたるちゃんにつけちゃったのは、この私ですからね」




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