16:名無しNIPPER[saga]
2015/04/10(金) 06:40:45.64 ID:qg5Ptqqq0
それから、春香は新聞紙を拾い上げ、もうひとりの春香にかぶせた。
現れた時と同じように、彼女の姿はなにごともなかったように消えた。
また、二人の空間になったのだ。
おれはこの虚な沈黙を打ち破った。
「その、スタンドで平行世界に飛んできたとして、なんでおれなんだ?」
春香はしばらくためらった風であったがこたえた。
「この世界のプロデューサーさんが、亡くなったからです。それでみんなが…ばらばらになったから」
続けて質問を重ねる。
「スタンドは一人に一体といっていたが、おれをこの世界へと飛ばしたスタンドの持ち主は誰なんだ、春香」
口ぶりから予想はできていたが、これは聞かなければならない。そして、これは目の前の彼女が春香だという証にもなるだろう。
「…私です」春香は俯き、ほとんど消え入りそうな口調でこたえた。
「ありがとう。それでみんなはいったいどうなったんだ?」
春香は戸惑った様子で口ごもった。
「あの、怒らないんですか」
「驚かされたけど、怒ることじゃないと思った。それにまだ、この状況をよく呑み込めていないんだ。
だから、教えてくれ、春香」
春香は驚いた様子を一瞬見せたが、すぐに真面目な口調でこたえた。
「は、はい。その…プロデューサーさんが亡くなったのは三日前になります。
そして、社長がそのことを私たちには不慮の交通事故だと伝えたんです。」
ふっと小鳥さんの言葉を思い出した。
「確か、小鳥さんはおれはころされたと言っていた気がするんだが」
春香は頷いた。
「はい、社長なりの思いやりだと思います。本当のことを知っているのは社長、小鳥さん、律子さんぐらいだったんだと思います。
でもそれが、火に油をかける行為になってしまいました」
「一体どうしたんだ?」
「伊織は本当のことを知っていたんです。伊織はプロデューサーさんに気を配っていたようでしたから、自然と耳に入ったのでしょう。
社長の言葉で、激昂しました。『プロデューサーをころした犯人をどうして隠すの』と、伊織の目にはなあなあにごまかそうとしているように見えたんでしょ
う」
「…そうか、続けてくれ」
「実際は、プロデューサーさんはひき逃げをされたんです。千早ちゃんと歩いているところを」
「えっ、千早がいたのか?無事なのか」
思わず聞き返した。
春香はじっと押し殺したような声で言った。
「車にはかすった程度でした。でも、千早ちゃんはそれ以上に…」
そこで春香は話を止めた。何度か深呼吸をして、話をつづけた。
「心に傷を負ったんです。それから、千早ちゃんは、右腕をかきむしるのをやめないんです。爪が血で真っ赤になってもやめないんです。
力づくで止めると『私が生きているのが悪いんだから』と言って怒りながら泣くんです…」
春香の目から涙がぼろぼろとこぼれ、春香はしゃっくりあげるように呼吸をした。
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