過去ログ - 前川みく「みくは自分を曲げないもん!」
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12:名無しNIPPER[saga]
2015/05/01(金) 06:06:44.69 ID:Q4mOaklu0
すぅっ、と息を吸ったのは、プロデューサーだった。

「うまく、伝えられるかどうかわかりませんが」

そう前置きをして話し始める。
少女の胸の内の問答を、彼は聞いたのだろうか。
まるで一言一句聞き漏らさずに聞いて、噛み砕いて、飲み込んだような。慈愛を孕んだ悲壮感に溢れた顔をしていた。

「今まで私は、逃げてました。怖かったんです。踏み込むことが。踏み込むことで何か大事なものを壊してしまうのではないのではないかと。
怯えていたと言ってもいいでしょう。遠くから見ているだけだったんです。そして、二度と犯さないと決めた過ちを犯しました。本田さんの件です」

プロデューサーは独白を始めた。

みくは以前、シンデレラプロダクションの本田未央が事務所に来なくなった際に部長よりプロデューサーの過去についてほんの少しだけではあるが聞かされていた。
『不器用な男』の話だ。シンデレラたちにガラスの靴を履かせようと、会話もなく手を引き、地図を押し付けて道を示し、馬車を用意できなかった男の話。

魔法使いはそこにはおらず、ただネズミとカボチャが残された。魔法はかからなかった。

そんな男の話。

「だから、もっと踏み込みたいのです。踏み込まなくてはいけないのです。私がやらなければならないこと以上に、もっと深くあなた達を知らないといけないのです。
見守っているだけでは、壊れてしまう。ドレスとガラスの靴があっても、馬車がないと舞踏会には間に合わない。そんなのはもう嫌なんです。
大げさかもしれませんが、私には今のこの出来事でさえ、ガラスの靴を失くしてしまうような、恐ろしいものなのです」

「だから――」

プロデューサーはみくの肩を掴んだ。縋りつくように、離れていかないように。
感情に鈍感な顔が、みくにはほんの少しだけ泣いているように見えた。

「なにがあったのか、話してください」

慟哭であった。それは一人の男の叫びであった。



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